
いて座
語り部と占者

俯瞰的構図で切り取る
今週のいて座は、『春雨やものがたりゆく蓑と笠』(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、ある番組のナレーターになったつもりで現実を物語っていこうとするような星回り。
作者には「春雨(はるさめ)」について詠んだ句が数多く残されていますが、なかでもよく人に知られている掲句は寒さも消え去った晩春の頃の雨。
どこか歌川広重の江戸名所百景の『大はしあたけの夕立』という浮世絵を思わせます。この作品は、突然の夕立に襲われたことを想像させる隅田川界隈の叙情的な風景をまるで鳥の目線から見たような斬新な俯瞰的構図で切り取ったことで、当時の浮世絵界に衝撃を与えました。
同じように掲句もまた、物憂げに降りつづける雨の中をいかにも労働者風の「蓑」を着た人と、身分の高い人か、女人であることをほのめかす「笠」をかざした人とが並んで語り合いながら歩いてゆく様子を俯瞰的構図で切り取っています。
ただし浮世絵と違ってそれが主人と使用人なのか、先生と弟子か、夫婦か他人か、そもそも男性と女性か、男性と男性かさえわからず、ただ「蓑と笠」と示すのみ。作者の想像さえ漏らさず、その関係性をめぐるすべてが読者の想像力に任されているのです。
「ものがたりゆく」とありますから、何事か会話はしているはずであり、雨音の効果もあって、もう少しで聞き取れそうな錯覚に陥るものの、具体的にどんな言葉を交わしているのかまでは判然としません。関係性、会話、行く先、すべてが曖昧模糊としたまま、雨の情景のなかに溶け込んでいくような印象だけが残り、まるで長大の物語のワンシーンを1人の語り部の視点から写しとったかのようです。
4月18日にいて座から数えて「語り」を意味する9番目のしし座へと火星が移っていく今週のあなたもまた、ある状況に置かれた人々や物語要素を創造的に新たな驚くべき全体へと結びつけていくことがテーマとなっていくでしょう。
占者のまなざし
20世紀前半にフランスで活動したマクルーシスは、斬新な技法で描かれた静物画や風景画で知られた一方で、挿絵や版画でも重要な作品を残しましたが、その中に16人のそれぞれ異なる占術を駆使する占い師を描いた『占者たち』という版画作品があります。
占者が見つめているのが、星であれ手のひらであれ、カードや小鳥やサイコロであれ、隠れた実態や不透明な未来を真剣に占おうとする者の視線は、知性と共感、魂のちからと心情のこまやかさといった、洞察力の2つの異なる原理に同時に従おうとしているように見えます。
おそらくこの作品自体は、自分にとってどの占者がフィットするか、自分がひいきにするべきはどんな相手なのかを、占術の内容や口コミなどといった先入観とは離れたところで、ただその視線の在り様によって選べるよう意図して作られたものなのでしょう。
しかし、いずれの占者にも共通しているのは、どこかに注意を凝らしていながら、ゆっくりしている、そんな特別な平静さをまとった空気感。おそらくは、掲句を詠んだ蕪村や、『大はしあたけの夕立』を描いた広重もまた、それと同じものをまとっていたはず。
今週のいて座もまた、そうした目に見えないものを扱う占者たちのように、いつもより一層深く落ち着いたまなざしを宿していきたいところです。
いて座の今週のキーワード
心の底を天から見下ろす





