おうし座
こころの奥行きを取り戻す
永遠の夏
今週のおうし座は、『算術の少年しのび泣けり夏』(西東三鬼)という句のごとし。あるいは、秘められた感情を思いきり打ち出すためのきっかけを得ていくような星回り。
夏休みの宿題なのか、算数の補習かなにかで居残りをさせられているのでしょうか。いずれにせよ、算数の問題が解けず、子どもがしのび泣いているというのです。
俳句としては、「算術の少年しのび泣けり」までは普通なのですが、最後の最後にぽんと置かれた「夏」という語によって一気にストーリー性が増して、場景が目の前に浮かび上がってくるようです。
語のリズムとしても、こちらの意表を突くような形となって機能していますが、ここでいう「夏」とはさながら額縁のようなものでしょう。絵や写真というのは、それにふさわしい「額縁」を得ることによって、動きやゆらぎをともなった「風景」となっていく。
掲句の場合も、「夏」という設定を得て初めて、単なる説明をこえて、過ぎ去った子ども時代の夏への郷愁(きょうしゅう)へとグーンと引き込んでいくだけの奥行きが宿るのではないでしょうか。
5月28日におうし座から数えて「表出」を意味する5番目の星座であるおとめ座で上弦の月を迎えるべく光が戻っていく今週のあなたもまた、こころに奥行きをもたらしてくれるだけの「額縁」を見つけていくことができるかも知れません。
「遊星的郷愁」
これは編集工学研究所所長の松岡正剛が、26歳で『遊』という雑誌をつくったときに、雑誌のコンセプトとして考えた言葉なのだそう。
もともとは松岡がSF作家のJ・G・バラードにインタビューした際に、夕暮れ時のロンドンの郊外の彼の小さな家で「松岡さん、ここが宇宙の郊外なんですよ」と言われた時の感覚をあらわしたのがこの言葉で、宇宙の郊外というのは地球のことなんです。
私は、あなたは、宇宙の郊外であるとても小さな地球の、そのさらに片隅に住んでいるんだという、そういう気持ちを思い出したのでしょう。ここでは「夕暮れ時のロンドン郊外」というのが、掲句の算術少年がいる「夏」の役割を果たしているのだと言えます。
バラード自身もまた、宇宙を見ていないのに宇宙の話をするような、それ以前の古典的SFに異を唱え、現実社会のなかの宇宙、都市のなかの天体、人びとの気持ちのなかの星というものを描こうとした人でしたから、そういう郷愁こそが香ばしんだということが、より胸に迫ったのでしょう。
同様に、今週のおうし座もまた、自分は世界の中心にいるのではなくて、この世界のほんの片隅に佇んでいるに過ぎないという感覚を「額縁」にしてみるといいでしょう。
おうし座の今週のキーワード
「ここが宇宙の郊外なんですよ」