おうし座
一番遠いところから振り返る
孤雁の景色
今週のおうし座は、「紀の路にもおりず夜を行(ゆく)雁ひとつ」(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、求めずにはやまぬものを追いかけていくような星回り。
毎年今の時期に北国から飛来してくる雁(かり)は、日本の各地に群れをなして降り立ち、越冬するもの。ところが、どういうわけか、たまにひとり仲間とはぐれて飛び行く姿を目にすることがあります。
掲句は、たまたまそんな雁を見かけた作者が、これがもし「紀の路(きのじ)」、日本の南の最果てに位置する熊野古道で見た景色だったらと想像を働かせて詠んだ一句。すなわち、紀の路に降りて羽を休めることなく、さらに友を求めて飛び続ける一羽の雁。秋の夜を月光に照らされて飛び続けるその姿に、万感の思いがこみあげてくるではないか、と。
南の海の果てに待っているのは、友か極楽か死に場所なのか。安易に仮の宿を設けてそこで事足れりとすることのできない哀しくも壮絶なその姿に、作者は直接会ったことのない俳句の師である芭蕉の姿を重ねたのかも知れません。
13日におうし座から数えて「探求」を意味する9番目のやぎ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自身のなかにも棲んでいる「孤雁(こがん)」の律動を少なからず実感していくことになるでしょう。
宇宙から地球を見るように
地球上には人間が70億人もいて、今も人口はどんどん増えていってるのに、人生というゲームに同時に参加できる人数は両手で数えられる程度に限られているのは、なんとも不思議な話です。しかしそういう意味で、人は考えている以上に狭いつながりの中に生きているのにも関わらず、そのすべてのつながりを生かし切れず、その事実にもほとんどの場合気付けない。物事の在り様を正確に認識するには、それなりの距離を取る必要あるのです。
例えば、天空の城ラピュタの主題歌「君をのせて」という歌を聞いたことがある人なら分かると思いますが、あの歌詞は地球からはるかに離れた「ぼく」の、宇宙からの視点で語られています。
あの地平線 輝くのは
どこかに君をかくしているから
たくさんの灯が なつかしいのは
あのどれかひとつに 君がいるから
真っ暗な宇宙空間の中に、青い地球が浮かびあがり、次第にわずかな地表部分に家々の灯りがともっているのが見えてくる。その意味で今週のおうし座もまた、それくらいの視界の「開け」を持てるかどうかが、一つの課題となってくるのだとも言えるでしょう。
おうし座の今週のキーワード
視界の開けから、焦点の絞りへ