おうし座
月の薄明
もののはずみ
今週のおうし座は、「颱風の胎内に入る燭(しょく)の火よ」(三好潤子)という句のごとし。あるいは、ものに憑かれていくような星回り。
「胎内」とは、なにも女性の身体の子宮のことだけを指すとは限らない。霊地にある洞穴や窪みもまた自然の「胎内」であり、そうした場所というのはスマホのマップ機能で簡単に行けるような場所では決してありません。
颱風(台風)がくると、ニュースなどでは中心からのキロ数や気圧数で簡単に暴風域だとか予想針路などと言いますが、本来それは人間の力による予測や把握の一切を拒絶するような絶対的な他者であり、分かりあえず、触れえない存在なのではないでしょうか。
掲句の見どころは、そんな隔絶した他界や無明地獄のごとき台風の中の世界を、作者がいっそ懐かしく、心惹かれるように感じて、蝋燭の灯りをもって記憶の底へ底へと追い求めていこうとしている点にあります。
何かに憑かれるというのは、こういうことを言うのでしょうけれど、そうした瞬間というのは、いつだって「ふと」、「たまたま」訪れて、しばしば「なつかし」く感じられるものなのかも知れません。
10月1月から2日にかけて、おうし座から数えて「記憶の光景」を意味する12番目のおひつじ座で特別な満月を迎えていく今週のあなたもまた、長いあいだ忘れていた記憶や感覚を何かしら取り戻していくことができるはず。
ルナティックな感覚
秋が深まるにつれて、月もまたますます寂しいもの、冷えたもの、孤立的なものとしての趣きを深めていきます。
例えば「欠けてかけて月もなくなる夜寒哉」という与謝蕪村の句などは、いよいよアナザーワールドとしての月に狂い始めている境界線上にあるのではないでしょうか。
言ってしまえば、月には必ず「片割れ」が必要なのです。いつもなら、どこか手の届かないところにあるようなところに、それを求めて手を伸ばしていく時、ふいに片割れ同士は結びついてひとつに成っていく。
私たちは月的なものとつがいとなることで、やっと一対の何かになれる。今週のおうし座は、まさにそうして「片割れ」を否応なしに求めていくタイミング。うまくいけば、なまなましいまでに「境」をくっきりと感じることができるはずです。
今週のキーワード
月とつがいになる