おうし座
断つべきものを絶つ
一本の匙
今週のおうし座は、「泉の底に一本の匙夏了る」(飯島晴子)という句のごとし。あるいは、「あっ」と思うような仕方でなにかを了解していくような星回り。
「了る(おわる)」という言葉は、単に物事が終わるだけでなく、よく分かる、悟るの意も含んでおり、厳かではあるものの、どこか力強い印象を与えます。
「泉の底」に沈んだ「一本の匙」の金属性が、張りつめた静謐のなかで見出され、その響きがありありと感じられるほどに質感があらわになったところで、作者のなかで夏といういのち輝く季節との決別が浮かび上がってきたのでしょう。
「匙」の冷たいイメージには、どこか秋の気配がうかがえますが、ここにはただ夏(過去)へのきっぱりとした決別があるばかりで、来たる季節への期待も、不安も、何ら伝わってくるものはありません。
作者はただ過去への強い決別によって支えられてのみ、そこにただ「在る」のであって、ありもしない亡霊のような未来を追う必要を感じていないのかも知れません。
19日におうし座から数えて「一つの終わり」を意味する4番目のしし座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、ひんやりとした冷たい決意を胸の底に沈めていくことになりそうです。
陶淵明の「帰去来辞」
40を過ぎた頃に役人生活に見切りをつけて故郷に帰り、「隠遁詩人」として現代日本で最も愛読されるようになった古代中国の詩人・陶淵明(とう えんめい)は、故郷へ帰る際に「帰去来辞」という詩を書いていますが、その書き出しは以下のようなものでした。
「帰りなんいざ、田園まさにあれんとす、なんぞ帰らざる(さあ家に帰ろう。田園は手入れをしていないので荒れようとしている。今こそ帰るべきだ)」
歴史的名文として知られるこの決意表明は通しで読んでいくと非常によい心地がするのですが、今週のおうし座にとって特に重要と思われるのは以下の一節。
帰りなんいざ。請ふ交りをやめて以て游(あそび)を絶たん。世と我と相遺(あいわ)する、またがしてここになにをか求めん。親戚の情話を悅び、琴書を楽しみ以て憂ひを消さん。(さあ家に帰ろう。どうか世人との交わりをやめたい。世間と私とは、お互いに忘れあおう。再び仕官して何を求めようか。家族のまごころのこもった話を聞いては喜び、琴を演奏し書物を読み楽しんで、憂いを消すのである。)
嫌々なにかをしていられるほど、人生は長くはない。そのことを今週はよくよく噛みしめていくといいでしょう。
今週のキーワード
金属性の決意