おうし座
妻は少年のごとく、少年は妻のごとく
待つ妻
今週のおうし座の星回りは、「天の川頭上に重し祈るのみ」(長谷川ふみ子)という句のよう。あるいは、待つなかでおのれに通う血の温度を実感していくこと。
作者は夫である俳人・長谷川素逝に手をひかれるようにして世間に知られるようになった人。師である高浜虚子はその句風をふまえて彼女に「思慕静居」と名付けた。
掲句は戦地へ赴いた夫を待つ妻の情が溢れんばかりに込められており、ともすれば通俗的で甘すぎると感じる人も多いかも知れない。だが、芸術的な深さや技巧の冴えなどとは別のところで多くの人の心の琴線に触れていくまごころがある。
彼女にとって戦う夫は「醜の御楯」などではなく、あくまで想い人であり、人間・長谷川素逝であり続けた。そこでは満天の空にかかる「天の川」でさえも、待ち人と自分を隔てさえぎる暗く重い運命の重荷として映ったのだろう。
芸術とは鍛錬であり、すなわち人間が人間である道に他ならない。その意味で彼女の句境は一人寝のわびしさや苦しさを重ねて夫を待つ中でこそ研ぎ澄まされていった訳で、ここには彼女の芸というより人間がそっと置かれているのだと言える。
12日におうし座から数えて「渇きと癒し」を意味する12番目のおひつじ座で、火星に月が重なっていく今週のあなたもまた、彼女のような「思慕静居」のなかで自身のまごころを研ぎ澄ませていきたいところ。
震える少年
「ジョエルの心はとびきり澄みきっていた。それは世界が入ってくるのを待っているカメラの焦点のようだった。壁はこまやかな十月の落日に橙色に光り、窓は冷たい季節の色に染まったさざ波の立つ鏡だった。
その窓のひとつから、誰かがこちらを目だけで見つめている。全身は黙りこくっていたが、その目はわかっていた。それはランドルフだった。まばゆい夕映えはしだいにガラスから流れ去り、あたりは黄昏のとばりでうずまっていく。けれども、そこには淡雪が舞っているようにも見えた。雪は雪の目を、雪の髪をかたどりながら、まるで白いかんばせ(顔)のように微笑んだ。」
この際、主人公のジョエルがどんな少年で、ランドルフという青年がいかなる経緯でジョエルを見つめることになったかという説明は省きますが、これは戦後のアメリカ文学界に弱冠24歳で彗星のように登場したカポーティ―の処女作『遠い声・遠い部屋』のラストシーンであり、アメリカのゲイカルチャーを大きく揺り動かした作品でもありました(執筆は22~23歳時)。
しかしそれにしても、避けることのできない出会いや別れというのはこういうものなのかと、こうも強く思わされるのはなぜか。それは怠惰とは対極の震えるような少年の心が、極限まで透明な文体で描かれているからでしょう。
今週のキーワード
芸ではなく人間をそこに置く