おうし座
善は急げ
ホリーと「僕」
今週のおうし座は、カポーティの『ティファニーで朝食を』の「僕」のごとし。あるいは、世間にとってのではなく、自分なりの「善」を大事にしていこうとするような星回り。
小説の舞台は第二次大戦下のニューヨーク。小説家志望ながらまだそれだけでは食べていけず9時5時の仕事をしている「僕」は、同じ建物の真下の階に住んでいる猫のように自由気ままな美女のホリーに惹きつけられる。
けれど一方で、身軽でいたい、責任なんて負いたくない、何にも所有したくない、そんなホリーの気持ちが分からない訳ではないからこそ、「僕」は次第にホリーに対して反発も感じていきます。
年齢を重ねていくということは、「重さ」を抱えていくということでもあり、それを拒否し社交界を気ままに渡り歩く彼女の生き方は、やりたくない仕事をやらざるを得ない「僕」にとって「あさましい自己顕示欲の権化」であり、「意味のない空疎な人生を送る人間」であり、「度し難いまやかし」に思えたのです。
それでも「僕」はホリーのいびつなイノセンスの輝きが、いつか必ず失われてしまうことを予感しているからこそ、そう遠くないうちにそのきらめきを失ったとしても、きっとホリーが幸せでありますようにと切に願うようになる。
今週のあなたもまた、そんな「僕」にどこか自分を重ねていく中で、誰かどこかに確かに感じられる価値あるものの輝きに手を伸ばしていくことでしょう。
何を選び取るのか
結局ホリーは物語の後半、犯罪に加担して逮捕されたところを「僕」の協力に難を逃れ、高飛びしていきます。その際の彼女が「僕」に言った言葉を、少し長いですが引用しておきます。
「要するに「あなたが善きことをしているときだけ、あなたに善きことが起こる」ってことなのよ。いや善きことというより、むしろ正直なことって言うべきかな。規律をしっかり守りましょう、みたいな正直さのことじゃないのよ。もしそれでとりあえず楽しい気持ちになれると思えば、私は墓だって暴くし、死者の目から二十五セント玉をむしったりもするわよ。そうじゃなくて、私が言ってるのは、自らの則に従うみたいな正直さなわけ。卑怯者や、猫っかぶりや、精神的なペテン師や、商売女じゃなきゃ、それこそなんだってかまわないの。不正直な心を持つくらいなら、癌を抱え込んだほうがましよ。だから信心深いとか、そういうことじゃないんだ。もっと実際的なもの。癌はあなたを殺すかもしれないけど、もう一方のやつはあなたを間違いなく殺すのよ。」
特に最後の一文は印象的ですね。今週はあなたもまた「善きこと」に励んでいきたいところです。
今週のキーワード
イノセンス