さそり座
“普通の人間”など超えていく
不屈の魂の錬成
今週のさそり座は、『冬の噴水胸に収めて炎とす』(原子公平)という句のごとし。あるいは、みずからの内面奥深くで錬金術を施していこうとするような星回り。
1955年に刊行された句集『浚渫船(しゅんせつせん)』に収録された一句。あとがきで「戦中戦後の苦しい生活を、時には破滅に瀕する思いで過ごしてきた」と述べているように、小児麻痺の体に生まれ、10代で父や2人の姉らと相次いで死に別れるなど、すさまじい逆境を生き抜いてきた作者ですが、この句にはそうした現実の過酷さをものともしないような不屈の精神が感じ取れます。
「噴水」といえば、大抵は涼感をもたらす夏の素材を連想するものですが、この句では寒々しい感じのする「冬の噴水」が詠われています。しかしそれでも、じっと見つめていると、時おり低く垂れこめた雲の合間から日が差してきて、きらきらと光った瞬間があったのかも知れません。
それはほんのわずかな瞬間であり、普通なら見過ごしてしまうようなごくささやかな熱量であったのでしょうが、作者は「それで十分」と言わんばかりに、「胸に収めて炎とす」とみずからの心に誓ったのです。
12月20日にはさそり座から数えて「再誕」を意味する5番目のうお座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、どんな時にも心のゆとりを失わず、愚直に希望の火だねを見つめ育てていきたいところです。
古代の王とレオンテ
「レオンテ」とはライオンの毛皮のことであり、ギリシャ神話の英雄で、未知の外的による脅威を打ち破る文明の力を体現したヘラクレスのシンボルでもありました。
というのも、ヘラクレスが成し遂げた12の偉大な業績のうち、最初に行ったのがネメアの不死身のライオン退治であり、ヘラクレスの放つ矢でさえも貫き通すことができず、素手で必死に締め落とすことでなんとか勝利できたほどの怪物中の怪物だったのです。
それ以降、ヘラクレスの兜となり、鎧となったライオンの毛皮は、権力者たちが自身の超人的なパワーを示すために好んで用いられ、かのアレクサンダー大王もライオンの皮をかぶった肖像を描かせた他、ギリシャの諸王、フランス王アンリ4世、そして皇帝ナポレオンまでも政治宣伝のためにヘラクレス風の雄姿を描かせてきました。
彼らは古代から伝わる「レオンテ」の象徴性を復活させ、それを巧みに利用していった訳ですが、それは彼らが「普通の人間」としての過去を捨て去っていくための通過儀礼でもあったのではないでしょうか。
その意味で、今週のさそり座は、周囲や外側にむけてレオンテをまとう代わりに、心の内側にレオンテを敷いていくことで、自らの霊的威厳と自律性とを守っていくこと、そしてそのためにできることは何でもやっていこうとすることがテーマになっていくのだと言えます。
さそり座の今週のキーワード
怪物は我がたましいの内に