さそり座
力の充満へ
アンチ・ライトな未来志向
今週のさそり座のテーマは、切断しないでいること。あるいは、あえて過去を切断せずに、自分が感じているさまざまな情報のすり合わせに時間をかけていこうとするような星回り。
現代社会では何かしら自分たちの身に不幸に見舞われたり、つらい出来事が起きると、どこかで区切りをつけて「前向きに進んでいく」ことをよしとする傾向がありますが、哲学者の國分功一郎は『<責任>の生成―中動態と当事者研究』の中で、そこで無意識的に行われる「過去を自分から切り離そうとする」ことこそが、すなわち「意志」というものの本質に他ならないのだと述べています。
そして、私たちは「個人の意志」というものをどこか過剰に神聖視する一方で、思い出したくない過去や忘れたい記憶を切り離す際にアルコールや薬物などを利用している訳ですが、國分はむしろ逆に「意志という概念こそ「薬物的」なのではないか」と指摘してみせるのです。
意志にも薬物のような効果がある。「未来志向」というのは非常にライトなかたちで世の中に浸透しているとも言えますよね。子どもたちに対しても、「未来の夢に向かって羽ばたこう」とかそういうことばかりが言われている。何か思い出したくない過去をみんなで必死に無視しようとしているようにも見えます。過去を忘れ、目を輝かせて、微笑みながら未来の夢に向かってジャンプしていく。それはハイデガー的に言えば、「考えるな、考えるな」と言っているに等しい。
こうした議論に対し、対談相手を務める小児科医の熊谷晋一郎は長年にわたり当事者研究を共にしてきた綾屋紗月の言葉を引いて、健常者と言われている人たちが、「あまりにもうっかりしているんじゃないか」と言います。つまり、この「うっかり」ということこそが「切断」の別名に他ならず、本来なら非常に手間と時間のかかる内なる声や外部からの情報のすり合わせ過程を、あまりにもあっさりと意志にまとめ上げてしまっており、考えまいとし過ぎているのだ、と。
12月13日にさそり座から数えて「実感」を意味する2番目のいて座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、過剰な意志依存をいったん落ち着かせるべく、意志がもたらすある種のパターナリズムを解除して、かすかな違和感やまとまらなさに踏みとどまってみるべし。
東京事変の『閃光少女』
ふだん目的と手段の関係にとらわれた日常生活を送っている私たちにとって、東京事変の『閃光少女』は、その疾走感あふれるサウンドや特徴的な歌声だけでなく、その歌詞もまた強烈な光を投げかけてくるようです。例えば、
今日現在(いま)が確かなら万事快調よ/明日には全く憶えて居なくたっていいの
今日現在(いま)を最高値で通過して行こうよ/明日まで電池を残す考えなんてないの
という部分では惰性で延長された未来が否定され、
昨日の予想が感度を奪うわ/先回りしないで
昨日の誤解で歪んだ焦点(ピント)は/新しく合わせて
という部分では現在まで引きずるような過去を否定し、あくまで今日というこの一瞬を「新しく」生きることの必要性が訴えられているのです。ただし、ここでの現在は、何か目的のための手段ではなく、役には立たないけれどそれ自体で生き生きと力に満ちている現在です。
「呼吸が鼓動が大きく聴こえる」一瞬一瞬のなかで、「またとないいのちを/使い切っていく」くらい何かに夢中になっていくこと。
今週のさそり座もまた、「今日現在(いま)がどんな昨日よりも好調」であるように、一日一日を悔いなく思いきり使い切ってみてください。
さそり座の今週のキーワード
役には立たないけれどそれ自体で生き生きと