さそり座
ささやかな神秘
言葉狂い
今週のさそり座は、『切株やあるくぎんなんぎんのよる』(加藤郁乎)という句のごとし。あるいは、どんなにささやかであれ、命懸けになれるものを見出していくような星回り。
さっと読んだだけではなかなか句意が読みとりにくい一句です。上五以降をかりに「歩く銀杏銀の夜」と読むなら、銀杏の実に足が生え、月が銀色にあたりを照らすなかで歩いていく幻想的な光景となり、それはそれで切株のどっしりとした存在感との対比がきいた、他にないユニークな世界観が打ち出されます。
しかし、もしこれを「或る苦吟難吟の夜」と読むなら、一転して句作の舞台裏にある苦しさや、未熟さ、みっともなさといった現実が立ち現れてきます。その意味で、ひらがなに異なる2つの読みをもたす「掛詞(かけことば)」が見事にきいた一句であり、まるで手品のような言葉遊びの極致でもあります。
ただ、そう言うと、しょせん空疎な言葉遊びなんだ、と開き直っているかのように聞こえるかも知れませんが、作者が苦しみながらもその先へと突き抜けるために、わずか十七音の短い言葉のつらなりに命を懸けていることも、掲句からひしひしと伝わってくるのではないでしょうか。
しょせん言葉遊びであるからこそ、言葉に対してどこまでも真剣に遊び尽くそうとする、それが作者の俳人としての筋だった訳です。10月29日にさそり座から数えて「向きあうべきもの」を意味する7番目のおうし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、他人がドン引きするほど狂える対象にとことん向きあっていくべし。
深夜のダイバー
「深海のエイリアン」とも呼ばれるタルマワシは、海中を漂って暮らす体長1~2センチメートルほどのプランクトンで、エサとなる他の生物をただ食べるだけでなく、それらのエサ生物の体を外壁を残してくりぬき、自分が住むための半透明の「家」に作りかえてしまうという恐ろしい特徴を持っています。
しかもそれだけでなく、映画『エイリアン』のように、卵を体内で繁殖させて孵った子どもがある程度大きくなると、体を食い破って外へ出ていく。つまりタルマワシのさながら樽のような「家」は、同時に子どもたちの「保育の場所」でもある訳です。
これは喩えるなら人間の男が子を産んだりするくらい、これまでの生命の進化論が通用しない常識破りの話で、最近ではダイバーたちは綺麗なサンゴとかを見るよりも、真っ暗な海でぷかぷか浮きながら、タルマワシみたいなこれまでよく正体が分かっていなかった生物を発見したり、観察したりする人が増えているのだそうです。
今週のさそり座もまた、そうした自分なりに取り組みがいのある神秘世界へと改めてダイブしていくことがテーマとなっていくでしょう。
さそり座の今週のキーワード
常識を食い破るまで