さそり座
来たるべき流動に向けて
土曜の午後に訪れる現実逃避の感覚
今週のさそり座は、霧深い魂の故郷への下降。あるいは、堅く安定した地面の下に横たわっているカオスにみずから身を委ねていこうとするような星回り。
スペインの哲学者フェルナンド・サバテールの『物語作家の技法ーよみがえる子供時代ー』では、『海底二万マイル』などの昔懐かしいタイトルを挙げ、「下降の旅」という章のなかで次のように書いています。
このような地理学上の倒錯行為は人に眩暈を覚えさせることにもなろう。にもかかわらず、われわれの足下に横たわるものは時代を問わずつねにわれわれの心を惹きつけてやまなかった。そこは死者の国である
確かに、海に囲まれ数多の川と寄り添いながら暮らしてきたわが国の人間も、いつからか陸の、すなわち生けるものの論理だけで生活を覆い尽くすようになってしまい、自分たちの足場の下は決して固いコンクリートのみでなく、もっと曖昧で、流動的で、時には生者をすっかり呑み込んで異なる次元に連れ去ってしまうようなカオスによって構成されてもいるのだということさえ、ほとんど意識しなくなってしまっているのではないでしょうか。
サバテールは、かつて哲学書を指さして「この本に筋はあるの?」とたずねた幼い弟に「あるもんか」と答えてしまったことへの深い反省から出発し、「自然科学の領域で発生」したリアルなものの巧みな反映を目指す「小説」に反して、「感性の麻痺した大人として、土曜の午後に訪れるあの管理された現実逃避の感覚に包まれながら、霧深い魂の故郷へと降りていく」手段としての「物語」という言い方で、適確に位置づけています。
6月26日にさそり座から数えて「失われたもの」を意味する12番目のてんびん座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、かつて子どもの頃に読んだ物語の手触りをほんのちょっとでも思い出してみるといいでしょう。
水面下のうごめき
この宇宙には基本的に「現状維持」などという状態は本当は存在しません。静的な調和すらも、実際には動的平衡のもとで成り立っているに過ぎないのです。
逆に言えば、「現状維持でいこう」という態度表明というのは、すべからく自分の内部や周囲との動的平衡を破壊していく宣戦布告に他なりません。
このことは、今のあなたならばよく分かるはず。
まだ際立った人生の変化や、特別なイベント事の最中にいる訳ではないにしても、水面下ではギリギリのところまで葛藤が高まっていたり、今にも決壊寸前のダムのように「その時」が迫っていたりしていることを。
今週のさそり座もまた、目に見えない力の流れがどこへ向かっていこうとしているのか、頭で考えるのではなく心の奥深いところで感じてみてください。
さそり座の今週のキーワード
暗渠(あんきょ)のふたをあけていく