さそり座
しんしんと潜るよろこび
青一色に染まっていく
今週のさそり座は、「しんしんと肺碧きまで海の旅」(篠原鳳作)という句のごとし。あるいは、一等深いところに潜っていくような星回り。
作者は沖縄の宮古島で教師をしていた人。目の前に広がるのは、はるか彼方まで青一色の海また海。その中を旅していると、肺の中までも青一色に染まっていくようだ、と言うのです。
「しんしんと」は「深々」とも「森々」とも書き、通常はひっそりと夜が静かに更けゆくさまや寒さが身に沁みるさまなどを表しますが、ここでは明るく健康的なはずの夏の海に使われることで、独特の味わいが生まれています。
まるで深海の底へとゆっくりと沈んでいくかのような、見たことのないはずの深い青が胸の内側にじわじわと広がっていく。すると、時間の流れがみるみる変わり、それに応じて幻想のようだったビジョンが確かな輪郭をもった現実へと変貌していく。
それは頭の中で勝手に作った幻想を突き抜けて、この世界をきちんと体感で捉えようとする冒険的な試みなのだとも言えるかも知れません。
21日にさそり座から数えて「探究と喜び」を意味する9番目のかに座で先月に続き2度目の新月を迎えていく今週のあなたもまた、自分なりの体感を通じて探究上の壁を突き破っていきたいところです。
切なさと感情の強度
例えば、かつていにしえの時代の旅人にとって、旅とは故郷や知り合い、そしてこれまでの暮らしとの別れであり、もう2度と再会できないかも知れないという"決定的な断絶”さえ意味しました。だからこそ旅立ちは「切ない」ものであり、そこには確かなカタルシスがあった訳です。
ひるがえって、SNSを通じていつでも再会の機会を持ちえる現代社会では、目の前の誰かと「もう2度と会えないかも知れない」といったいじらしい緊張感は極限までゆるんでしまっていますし、それに応じて「感情の強度」もますます薄まってしまっているように思います。
もう2度と会うことはないかも知れない。だからこそ、過去でも未来でもない、今この瞬間に集中する。そして、伝えるべき思いがあれば、それを言葉にして伝えていく。今まぶたの裏に浮かぶ相手の像が失われてしまう前に。
今週はそうした切なさの感覚を大切にして、1つひとつの体感を深めていきましょう。
今週のキーワード
強度の探究