さそり座
切望と発露
空白が結びつきを作り出す
今週のさそり座は、「曖昧に踊り始める梅見かな」(野口る理)という句のごとし。あるいは、いまだかつて試みたことさえないことに手を出すだけの勇気を振り絞っていくような星回り。
初春、まだ寒いうちにほかの花に先駆けて白い五弁の花を咲かせる梅は、もともと日本には自生しておらず、飛鳥時代に他の文物とともに中国から輸入されてもたらされました。
朝、どこからともなく清らかな芳香が漂ってきて、そんな梅の花を探して見に出かける。それは待ち望んだ春をわが身で感じたいという、もう矢も楯もたまらない思いの発露であり、飛鳥時代の文明開化の原動力でもあったはず。
掲句はまさにそんな梅と日本人、梅とわが身とのあいだの空白と結びつきをそれとなく言葉にして見せてくれていますが、と同時に、それは今のあなた自身の後ろ姿を言い表わしたものでもあるのではないでしょうか。
どうやって踏み出せばいいか、どこから手をつけていいのかも分からない。けれど、確かに自分はいまだ触れ得ぬ‟それ”を求めてやまず、その言葉にできない思いだけが今ここに在る。
それがどんな結果をもたらすかはさておき、今週は自分のなかの切望を研ぎ澄ませ、身に宿していきたいところです。
自然な呼吸で
詩人の最果タヒはイラスト詩集『空が分裂する』のあとがきで、自身が詩を「なんとなく、書き続けてきた」経緯について、次のように振り返っています。
「創作行為を「自己顕示欲の発露する先」だという人もいるけれど、そうした溢れ出すエネルギーを積極的にぶつける場所というよりは、風船みたいに膨らんだ「自我」に、小さな穴が偶然開いて、そこから自然と空気が漏れだすような、そんな消極的で、自然な、本能的な行為だったと思う。誰かに見られること、褒められること、けなされること、それらはまったく二の次で、ただ「作る」ということが、当たり前に発生していた。」
この「自然と空気が漏れだすような」という箇所などは、まさに今週のさそり座にとって指針となる在り方と言えるかもしれません。
みんなとどうしても違ってしまう自分の存在を、平凡な装いで隠すのでも、過剰な賞賛で塗りたくるのでもなく、ただそういうものとして受け止め、息をするように自然に打ち出していく。
今はそんなところに落としどころを見つけていく時です。
今週のキーワード
ゆっくり丁寧に息を吐く