いて座
虚実のはざまで
もっと悲しくなろうよ
今週のいて座は、『朧おぼろふめば水也(なり)まよひ道』(小林一茶)という句のごとし。あるいは、気持ちをいったん増幅させることで収めていこうとするような星回り。
九州を歩き回ったあと、そこから松山に花見に行く途中に、宿を求めてかつての知り合いを訪ねたところ、すでに亡くなっているし泊めることもできないと告げられ、途方にくれて、とぼとぼ歩いているときに詠まれた一句。
夜道を照らしてくれる月も朧にかすんで、頼りなく、そのおぼつかなさが身に沁みてくる。それでも気持ちを奮い立たせ、なんとか足を踏み出せば、下はぬかるみ、いや水たまりで、一気に情けない気持ちが襲ってくる。一体この先自分はどうなってしまうのか、とつい感傷的になってしまったその気分を詠嘆しているわけです。
とはいえ、この後、100歩ほどあるいたところで泊まるところが見つかって、「月朧よき門(かど)探り当てたるかな」などと書いています(『西国紀行』)から、作者は掲句で、あえて深刻になってみせていたのかも知れません。
作者の「おぼろおぼろ」がある種の虚構であったように、私たち自身もまたみずからの直面している事態を「まよい道」としてあえて認め、自分なりに脚色することで、何とかすこしの光も届かない真の闇に引きずり込まれまいとしているのではないでしょうか。
その意味で、4月2日にいて座から数えて「実存」を意味する2番目のやぎ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、もっとも率直で後ろ向きな本音を吐露していくくらいでちょうどいいでしょう。
行間を豊かに
今週のいて座に何か伝えたいアドバイスがあるとすれば、それは「本音を雑に扱わないように」という言葉に尽きるでしょう。
もし「真実はひとつ」となどと安易に言ってのけて暢気にしていられる人がいたらある意味で簡単なのですが、とは言え「言いたいこと」と「言ってること」のギャップをいつも適切に埋められる人というのもほとんどいないはず。
特に現実が疲弊し荒んでくると、どうしても口をついて出る「言ってること」が「言いたいこと」まで縛り付けて、そのままバンドか何かで世界をぐるぐる巻きにして叩きつけたいような気持ちになってくる。
つまり、胸中に沈んでいる一片の真実や本音というものを無理やりありきたりな理屈や常識の枠内に押し込んで、見ないフリを決め込むうちに、本来その人に開かれていた可能性までもをみずから閉じてしまうのです。
真実はいつも「言ってること」の行間にあり、それはテキストの外にある実際の行動や声の出し方や視線との結びつきの中にある。いて座の人たちには、今こそそういう感覚を研ぎ澄まし、みずから実行していってほしいと思います。
いて座の今週のキーワード
取りこぼされがちな感覚や感情の断片を丁寧に拾い上げていくこと