いて座
魂の渇きに貫かれて
こちらは8月9日週の占いです。8月16日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
貫之のように
今週のいて座は、「川風の涼しくもあるか打ちよする波とともにや秋や立つらん」(紀貫之)という句のごとし。あるいは、求めるものをただひとつに決めていくような星回り。
この国の人々が暑く苦しい夏が終わり、秋の訪れを待ちわびるのは、なにも今だけに限った話ではなく、古代から日本の夏の蒸し暑さには誰もが閉口してきたようです。
平安時代の代表的歌人であり、「やまとうたは人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける」で始まる古今和歌集の仮名序の執筆者としても知られる紀貫之(きのつらゆき)もそこは同じでした。
この歌は、立秋の日に、殿上人たちが賀茂川の河原で遊ぶのに、供として一緒に行った際に即興でつくったもので、川波が送ってくる風が涼しいのは、波とともに秋がそこに立っているからだろうと、かすかな秋の萌芽を見事に詠みあげています。
秋風が吹き寄せると、川の流れもこちらに寄せる。川岸に波が立つと、秋が立つ。「寄せる」と「立つ」の二つの掛け言葉(ダブルミーニング)を用いているのですが、秋を運んでくる風や波は、まず涼しさを求める私たちのこころにこそ起きてくるのではないでしょうか。
いて座から数えて「力強い希求」を意味する9番目のしし座で8月8月夜に新月が形成されたところから始まる今週のあなたもまた、かすかな予感に過ぎなかったものをいかに一つのビジョンへと練り上げていけるかが問われていくはず。
シモーヌのように
二十世紀前半の激動と戦争の時代に、弱い者の立場に立ってひたむきに生き、そして何より徹底的かつ真摯な思索を貫き通して三十四歳の若さで死んだユダヤ人思想家シモーヌ・ヴェイユには、労働の意味やキリスト教の脱権力化と並んで、宇宙と人間との調和という大変重要なテーマがありました。
彼女はしばしば、光と重力という2つの力が宇宙を統御しているという旨について、色々な箇所で繰り返し述べており、「肉体的な呼吸のリズムと宇宙の運行リズムとを組み合わせることが必要である」とも書いていました(『重力と恩寵』)。
そして、このリズムの話は当然ながら音楽と結びつき、「情熱的な音楽ファンが、背徳的な人間だということも大いにありうることである。――だが、グレゴリオ聖歌を渇くように求めている人が、そうだなんてことは、とても考えられそうにない」と言い切るのです。
彼女は別の箇所で、「グレゴリオ聖歌のひとつの旋律は、ひとりの殉教者の死と同じだけの証言をしている」とも書いていますが、彼女もまた殉教者の一人であり、最後まで渇くようにグレゴリオ聖歌の旋律を求めた人でもあったのではないでしょうか。今週のいて座も、そうした魂の渇きのなかに自身の哲学を見出していくことになるかも知れません。
いて座の今週のキーワード
呼吸のリズムと宇宙の運行リズムの組み合わせ