てんびん座
身を切り崩すということ
望みのために犠牲を払う
今週のてんびん座は、「一家に遊女も寝たり萩と月」(松尾芭蕉)という句のごとし。あるいは、自分の身を削ったサービス精神を発揮していくような星回り。
掲句は、芭蕉が紀行文形式でまとめた『おくのほそ道』に出てくる唯一の色模様なのですが、後世の研究者らの手によって真っ赤な嘘であることが立証されています。しかし、芭蕉がそうまでして挿入しようとしたこのエピソードには、旅を愛した芭蕉の、流れ者としての美学が凝縮しているように思えます。
いわく、たまたま同宿することになった遊女の会話がふすまごしに聞こえてくる。その哀れな身の上話を耳にした翌朝、出発しようとしている芭蕉にむかって、うしろ姿が見え隠れするくらいの距離感で後をついていかせてほしいと遊女が頼んでくるのですが、それに対する芭蕉の答えがなかなか味があるのです。
「我々は所々にてとどまる方おほし。ただ人の行くにまかせて行くべし。神明の加護かならずつつがなかるべし」
とは言ってみたものの、芭蕉も「哀しさしばらくやまざりけらし」と付け加えた彼の心境はいかばかりだったか。今週のあなたもまた、自分の伝えたいことを伝えていくためには、多少の犠牲を払っていくことも仕方ないと理解しましょう。
かなしさと調和
考えてみれば、「萩」と「月」という取り合わせも、触れ合うことが決してありえない間柄でありながら、見事なまでにひとつの風景の中で調和しています。
確かに、世の中には喧嘩をしたことが一度もない夫婦というのもいるのかもしれません。しかし極端な言い方かも知れませんが、かなしさを共有したことのない夫婦などいません。かなしくなければ、調和などないのです。
「自虐」と言ってしまえば聞こえは悪いですが、自分の中からかなしさを切り出していくことは、ときに関係性に大いに華を添えるのだと、今週は肝に銘じておきましょう。
今週のてんびん座へのキーワード
流れ者の美学