てんびん座
おとなの都合からの脱却
遊びの名前としての職業
今週のてんびん座は、あたらしい空間をつくる遊びのごとし。あるいは、まずは自分の手や足を動かすなかで「見えない振動」を起こしていこうとするような星回り。
双極性障害の当事者の立場から既存の「現実」観に大いに揺さぶりをかけ続けてきた作家の坂口恭平は、『現実脱出論』という本のなかで「現実では個々の空間知覚が抑制され、容易に集団で動くことができる周波数だけが選択されて」おり、その意味で、現実とは多数派集団が作り出した「生き延びるための建築」なのだと喝破した上で、そうした集合建築物を個人的に改変する術について、次のように述べています。
小学生のころ、当時使っていた学習机と椅子を組み合わせ、それが画板の屋根にかけ、布で覆って、机の下に布団を敷き詰めた巣のような空間を作った。僕はそれを「テント」と呼んでいた。それを見た父が「建築家という職業があるよ」と教えてくれて、僕は建築家を志すようになった。
新しい空間をつくるということは、古い家を壊して、新築の家を建てることではないと僕は思っている。固まり、変容することがないと誰もが了解してしまった現実という空間に揺さぶりをかけて、見えない振動を起こし、バネ入りのビックリ箱のように新しい空間を飛び出させること。それこそが、僕が幼いころにやっていた「空間をつくる」という遊びだ。
ここで坂口が大切にしているのは、「現実」を変えようと闇雲に古い体制を糾弾したりそれを周囲に呼びかけたりする代わりに、創造的改変へと向かうためにいったん立てこもる「思考という巣」をもつことであり、「クルクルっと巻かれて現実の隙間にそっと隠れる」ことのできるような、目に見えない空間を確保していくことであるように思います。
12月1日にてんびん座から数えて「遊び」を意味する3番目のいて座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、現実の背後にそうした目に見えない「思考の巣」をいかに作り出していけるかということを自分なりに追究してみるといいかも知れません。
純粋体験としてのナンセンス
寺山修司の作品に『大人狩り』というドラマがあります。これは革命を起こして大人を皆殺し、または後楽園球場に大量監禁したあと、こどもばかりの世の中がやってきて……、こども政府はこども憲法を発布するというのが、その大筋。
ところが、世の中を支配する側にまわったこどもたちは、どんどんその残酷でユーモラスな本質を露わにしていき、つぎつぎとおとなたちの作った価値を破壊していくのです。例えば、こどもの詩人が登場してきて、「童話」と「教科書」を焼却しようと提案し、その代わりに次のような「詩」を発表するのです。
6663 6633 633……1!
1!
おいおい、これにどんな意味があるの、なんて思ってしまった人は、きっと自分が思っている以上に“おとな”側なのでしょう。というのも、こどもというのは、こうした呪文的な口ざわり、ロクロクロクサンといったようなナンセンスさ、意味のなさにこそ熱狂するものだから。
今週のてんびん座もまた、意味の川を簡単に渡ってしまおうとするのではなく、人生への好奇心のさきがけとなるような、もっとわがままな欲求を追求していくべし。
てんびん座の今週のキーワード
こども政府によるこども憲法の発布