てんびん座
加速主義の実践
思考停止の圧力に抗うために
今週のてんびん座は、『一九八四年』的想像力のごとし。あるいは、いったん最低最悪の未来を思い描いていこうとするような星回り。
1949年に刊行されたジョージ・オーウェルのディストピアSF小説『一九八四年』において思い描かれた未来世界では、戦争が行われているのですが、その戦争はかつてのような分かりやすい戦争ではなく、敵は国がでっちあげた仮想の敵国で、自国に打ち込まれるロケットは、国がみずから打ち放っている自作自演です。
いわば「でっち上げられた戦争」な訳ですが、国がなぜそのようなことをするかと言えば、国の特権階級が戦争状態を継続させることで、国民の無知と貧困、不充足な状態をつくりだし、権力による支配構造を継続させていたのです。
そこでは、やはり国民に思考をさせないために新しい言語が開発され、国民は思考を言語化することさえできず、つねに監視され、愛情や欲望を抱くことは犯罪となり、違反したものは思考警察につぎつぎと逮捕されていきます。
そうなると、もはや個人は個人ではなくなり、集団のパーツでしかなくなって、無知で隷従することしかできなくなった国民は、みずから戦争の継続を支持し、ますますみずからの手で自分たちを苦しみの最中に突き落としていくのです。
この小説の主人公は、物語を通じてずっと貫いてきた反権力的思考の末に、愛情を放棄し、思考を殺し、権力に飲み込まれ、すすんで無知になることで安寧を手に入れるという、最悪のバッドエンディングを迎えるのですが、これはまさに75年前の作家の想像力によって鳴らされた、未来の人類への警鐘の書と言えるでしょう。
同様に、7月6日にてんびん座から数えて「世間との折り合い」を意味する10番目のかに座で新月(種まき)を迎えていく今週のあなたもまた、そうした今の自分が考えうる限りの最悪のシナリオを改めて想像してみるべし。
嘘と罠を見破るべく
アメリカの社会心理学者スタンレー・ミルグラムによる有名な「隷属行動の研究」実験では、人びとは「命令に従うことが社会をより良くするために自分が果たすべき責任である」と信じた場合、どんなに残酷な命令であったとしても、良心の呵責をまったく感ずることなくそれに従うことができる、ということが示されました。
特に、日本人や日本社会は権威的な指導者による命令に弱いところがありますから、例えば「罪のない人たちは殺されるべきではないし、殺されてもいいという言動には断固反対する」といった、越えてはならない一線というものを引いておくことが大切になってきます。また、ナチスや戦中の日本軍などを例に、「権力者やリーダーはどのように嘘をでっち上げるか」などについてのある程度の知識を得ておくことも必要でしょう。
人間の本性には「共感」や「道徳性」、「自己制御」、「問題解決志向」などの側面だけでなく「復讐」や「攻撃性」などのネガティブな側面もあり、それらはともすると「恐怖」や「被害妄想」「妄信」などの危険性に陥る傾向があります。今ますます社会が混迷を極めていく時期だからこそ、それらを回避するために民衆をおとしいれる「陥穽(おとしあな)」をきちんと見抜くだけの批判力と知識が一層求められていくように思います。
今週のてんびん座もまた、そうしたある種の「社会的知性」の発揮に注意を向けていきやすいでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
自発的隷従化