てんびん座
失敗の型ということ
ダメっぷりの追求
今週のてんびん座は、『尻餅をついて掴みし春の草』(安積素顔)という句のごとし。あるいは、春のあわれを体現していこうとするような星回り。
作者は中途失明の盲俳人。尻餅をついて草をつかんだというだけの句ではありますが、句全体からなんとも言えない愛らしさが伝わってきます。
尻餅をついたときの仕草、その拍子に草をつかんだ驚き、そしてあわてた、困った、盲人であればなおさら誘われる哀れさとが相まって滑稽さのする表情。きっと尻餅をついて転んだ盲人に周囲の人々もびっくりして振り返ったはずですし、格好のおかしさを目にしてその口元には笑うに笑えない笑みが浮かび、すぐに起こしてやろうと駆け寄らないではいられないような切なさの感じられる姿が浮かび上がってくるようです。
掲句の底にあるのは、ゲラゲラと大爆笑するようなおかしさではなくて、しみじみと表情の奥からにじみ出てくるような愛すべきユーモアであり、それは作者が自分自身の気弱い哀れさをどこかで客観的に見ることができているからこそ為せる技でもあるのでしょう。
4月6日に自分自身の星座であるてんびん座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、自身の人間理解のほどが問われていくことになりそうです。
「To lose to gain(失うことこそ得ること)」
近代日本では「勝てば官軍」という考え方が基本となっていますが、今でも忠臣蔵の赤穂浪士や白虎隊、源義経そして新撰組などが大変な人気で日本人に深く愛されているのは、やはり「国破れて山河在り」といった敗北の美学が根底にあるからではないでしょうか。
3.11以降の日本社会は、まさにそうした「敗北力」が試されてきたとも言える訳ですが、この10年ばかりどうも結果的に日本人は「敗北力」のなさを露呈し続けてきたように思います。「勝つ」方に舵をきって、それを一番効率的に実現できる方法を見つけ、みんなでそれに乗っていこうとしてきた。失敗に蓋をして、すぐに前を向いて歩き始めてしまった。だからこそ、いつまでも心のなかに悩みや心配が行き交い続ける。
そうじゃないだろう。もっと自分たちのしでかした失敗を受け止め、繰り返された負けを拾って、しっかりと失敗の型をこしらえてから、成功というものを考え直すのでなければ、3.11以前から日本が抱えていた閉塞感は本当の意味で払拭されていかないのではないか。
掲句に垣間見られた「自分自身の気弱い哀れさの客観視」というのも、そうした敗北力の賜物であり、今週のてんびん座もまた自分なりの失敗の型を問われていくように思います。
てんびん座の今週のキーワード
失敗を戯画化する