てんびん座
弱さへの対抗
何と何を結びつけるお役目なのか
今週のてんびん座は、「タレント」の再定義のごとし。あるいは、みずからの内に備わっている「芸能性」を再発掘していこうとするような星回り。
例えばもともと滑稽な物まねを主とした大衆芸能であった「猿楽(さるがく)」は、室町時代に観阿弥・世阿弥の親子が将軍家に重用されるようになったことで、一気に貴族趣味的な「能」へと転化し、そこに日本の伝統的美学としての「幽玄」が成立していった訳ですが、じつは世阿弥の魅力はむしろ小難しい「芸術」になり切らなかった点にありました。
つまり、世阿弥は上流階級にとってのお気に入りとなることだけを目指した一方で、もともとの卑俗で猥雑な民衆の世界と縁を切らず、観客人気に依存した芸人稼業でもあり続け、それらを両立させんとする綱渡り状態を追求していく中で、自分たちの芸を確立していったのです。そうした自身の芸能の原点について、世阿弥は次のように述べています。
そもそも芸能というのは、人々の心を和らげて、身分の上下にかかわらず感動させ、寿命や福徳を増す基になり、寿命を延ばす方法である。究め尽せば、どんな道もすべて寿命や福徳を増すことであるが、ことにこの猿楽能の芸は、最高の芸の位に達し、家名を残すことは天下に認められたことであり、寿命と福徳を増すものである。(『風姿花伝』)
高貴と卑賤、猥雑と神聖、滑稽と厳粛、土着と外来、さまざまな両義性を結びつけていくことこそが、古典芸能の「芸能」たるゆえんであり、すなわちそれは権力と民衆のあいだを結ぶパイプの役目であり、成立条件もあったのです。
2月20日にてんびん座から数えて「お役目」を意味する6番目のうお座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、今どんな仕事についているにせよ、キャリアや職業の要件定義の根底にあるこうした歴史や考え方へ改めて立ち返ってみるといいでしょう。
克服ではなく補完
人間にとって、技術とはみずからの弱さに対抗するために生み出されたものと言えますが、その何よりの象徴が肌と服でしょう。
私たちの祖先は天敵であった大型肉食獣の活動が不活発な昼に活動するようになり、結果的に暑さに適応するためにツルツルの肌を手に入れ、その代償としての物理的な弱さや耐寒性の低さを補うために皮や繊維を加工して服を着るようになった。
ただし、そうした肌や服にまつわる技術によって、私たちは自分の弱さを「克服」できている訳では決してなく、ただ「補完」しているに過ぎません。そして、ここで言う「技術」は先の「タレント」に置き換えることもできるはず。
すなわち、芸能がその起源においてそうであったように、「タレント」とは置かれた環境や時代状況を「克服」するものではなく、ただ「補完」するがゆえに、この世界と人間とを結びつけるものとして機能しているのではないでしょうか。今週のてんびん座もまた、まずは自分は何を「補完」せんとしているのか、という観点に立っていきたいところです。
てんびん座の今週のキーワード
目指せマルチタレント