てんびん座
不格好な方が伝わることもある
悪の体験
今週のてんびん座は、『何桜(なにざくら)かざくら銭(ぜに)の世なりけり』(小林一茶)という句のごとし。あるいは、下から滲み出るものが自然と周囲へ伝わっていくような星回り。
作者が43歳ころの作。貨幣経済に丸浸りの江戸に住み、お金のことでは幼少期からずいぶんと苦労させられていた作者が、当時の世相をズバリうたった一句。
すなわち、なんだかんだと桜に名前をつけて、あこぎに稼ぎにかかっている。まさにこの世は銭の世であることよ、と。この点に関しては当時も今もまったく変わっていません。
例えば『闇金ウシジマくん』がじつに鮮やかに垣間見せてくれるように、今も昔も「銭(カネ)」を介すことで欲望はどこまでも膨らんでいき、見栄を張ったり、責任を回避しようとしたり、嘘を重ねていくことで、カネはいくらあっても足りなくなっていく。欲望と資本主義が結びつくとき、それは必ず人間に内在する悪を増幅させ、油断していたり、無防備だったりすれば、あっという間に人は悪に吞み込まれていってしまうのです。
そうしたスパイラルにいったん陥ってしまうと、友情も愛情もあっという間に消し飛びます。掲句はけっして好句とは言えず、むしろ不格好な句でさえありますが、それがかえって作者が知っている銭がねの世界の厳しさをよく伝えてくれているように思います。
同様に、4月1日にてんびん座から数えて「表出」を意味する7番目のおひつじ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、知的な操作によって伝えようとする内容以上に、自然と滲み出てきてしまうものが多くを語っていくことになるはず。
コミュニケーションのコードを外す
モンゴルには「ホーミー」という伝統的な歌唱法が今でも伝わっていて、もともとは遊牧民が家畜を呼ぶために使っていた発声が源流と言われています。1人で低音と高音、2つの音を同時に出すのが特徴で、初めは「こんな音を人間って出せるのか」と驚くばかりなのですが、次第にどこか懐かしさを感じさせる不思議な響きに引き込まれていきます。
それは人間だけに限らないようで、モンゴルでは草原で馬に乗りながらホーミーを歌うと、馬も嬉しいらしくこちらに耳を向けて聞いてくれるのだという話を、実際にモンゴルの人から聞いたことがあります。
私たちは普段、動物に話しかけることをどこか「おかしい」と感じていますし、それはどこかで会話の通じない相手には話しかけたり話を聞いたりしてはいけないというコードとなって社会のあちこちに張りめぐらされていますが、先のモンゴル人の話などを聞いていると、そうしたコードは人間が本来備えているコミュニケーションの可能性を著しく制限してしまっているのではないかと思われてきます。
今週のてんびん座は、そうして社会的に強制されたコードからそっと外して、みずからの思いの伝える上での可能性を貪欲に模索してみるべし。
てんびん座の今週のキーワード
脱ヒューマンスケール