てんびん座
ふと思い出すものこそが人生の本質
草田男にとっての茅舎
今週のてんびん座は、「冬空に聖痕もなし唯蒼し」(中村草田男)という句のごとし。あるいは、だんだん原点にかえっていくような星回り。
前書きには「川端茅舎を偲ぶ」とあります。作者は毎年繰り返し「まことに天才の名に値するものと思う」とこの亡き友をしのんでは句を作っていますが、この句も失われたもののを大きさを詠っているのでしょう。
「聖痕」とあるのは、十字架のキリストの釘打たれた掌の痕を生まれながらにして持っていた聖パウロの掌の痕のことを指しているものと考えられますが、おそらく茅舎の姿を重ねているはず。そして、限りなく澄んだ冬空がガランと広がっているこの世には、二度と茅舎のような作家が生まれることはないのだという意味を込めているのかも知れません。
「唯蒼し」という結びには宇宙的孤独の響きがありますが、しかし考えてみれば作者は亡き友の存在を通してそれを年々深めていったのだとも言えます。
19日にてんびん座から数えて「深い繋がり」を意味する8番目のおうし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、だれかなにかを通じて自身の深めるべき境地を思い定めていきたいところです。
夜道の窓
夜、街を歩いていて、ふと、明かりのついた窓が気になることがあります。そしてそこには大抵、明かりとセットとなった人影があり、その身動きの気配がある。
「どんな人が、どんな気持ちでいるのだろうか。」
そろって楽しくやっているのか。夫婦であれば、一日の仕事を終えてやっと顔を合わせ、ほっと一息ついているかも知れない。子供たちが大きくなってしまった家ならば、夕食後にすっと子供だけがリビングを抜けて自室に入ってしまった後の静けさが漂っていることだってあるし、飼い猫だけがその中を気怠そうに窓際へと移動していくことだってあるでしょう。
ふいに視界に飛び込んできた窓の景色は、まるでスクリーンに映された映画のように、赤の他人の人生なのに、どうにも身近に感じてしまったことが、誰しも一度や二度はあるはず。ひょっとしたら、草田男にとっての茅舎もまた、そうした夜道の窓のような存在だったのだとも言えるかもしれません。
同様に、今週のてんびん座のあなたもまた、そっと自分の人生を舞台裏からのぞいていくかのように、自分が大切にすべきものや存在に改めて気づいていくことでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
忘却と想起の連続としての人生