てんびん座
差異と反復
街角に可能世界の響きあり
今週のてんびん座は、「あの」「え」というやり取りのごとし。あるいは、かすかな差異が生じるところから豊かさが宿っていくような星回り。
例えば舞台演劇やミニシアター系映画の冒頭部などには、「あの」という呼びかけとそれに対する「え」という反応から始まるシーンが時たま見られる。
「え」という反応は、すぐに「えき?」という単語にスライドし、「分かりますか?」という交流に変わる。そうして両者の言葉がまじりあいつつ幾度かやり取りをくりかえし、「あの駅からこの道をまっすぐ行って、突き当りを右に曲がると」という道案内までたどり着くと、当初の不安げな危うい雰囲気はサッと消えてしまう。またもとの閉じた日常へと戻ってしまう。その、少しホッとするような、どこか残念なような、切ない気持ち。
あれは何だろうか。何かはっきりとした課題やテーマがある訳ではない。ただそこに感じられるのは、かすかな喪失の手触りと、あり得たかもしれない、しかし、実際にはあり得なかった可能性へのうっするらとした悲しみだろう。
誰かと交わす言葉の反復と変奏には、「あの」「え」という単純な発語から取り出される無限の可能性と、閉じた日常が開かれていく可能世界の響きがつねに孕まれているのだ。
8月30日にてんびん座から数えて「別世界の消息」を意味する9番目のふたご座で形成される下弦の月から始まる今週のあなたもまた、そんな心当たりから少しだけ自分の日常を開いていくことになるはず。
「は」と「も」の違い
ナルシストというのは、誰かを愛しているふりをしながら、本当に愛しているのは自分だけで、しかもその事実に自分では気付いていない人のことを言いますが、仮りに悪人との違いがあるとすれば、そうした自分への自覚の有無に他ならないでしょう。
もちろん、ナルシストと言っても自分を愛するという一点に関しては問題ないどころか、表現者として大いにプラスに働くこともあり得る訳で、それはすなわち自分「は」でなく、自分「も」であるが、それとなく伝わってくる場合です。
宇多田ヒカルの「Automatic」の歌詞にも、嫌なことがあった日「も」という箇所がありますが、これは良いことがあった日はもちろんだけど、そうでない日でさえ、というニュアンスを端的に表現していて、「は」であった場合を想定すると、より大きなアクセントになっていることが分かるかと思います。
こうした「も」での相手との繋がりは、島同士を固定的に結ぶ橋である必要はなく、さながら島を行き来する連絡船の航路のような、ゆるやかさや自由の余地を感じさせるのです。
今週のてんびん座もまた、そうした勘どころを掴んで実践していけるかどうかで大きく左右されていくように思います。
てんびん座の今週のキーワード
行間を固めないこと