てんびん座
夏休みが始まるとき
蝉の声と懐かしさの感覚
今週のてんびん座は、「蝉鳴いて少年にありあまる午後」(村上鞆彦)という句のごとし。あるいは、ポンと渡された余生を生きていくような星回り。
梅雨があけて、夏休みが始まりを迎えていく頃、ふと気が付くと家の外で蝉が鳴いていた。おそらく、庭や家のすぐそばというより、どこか遠くの方から聞こえてきたのでしょう。
その瞬間、「少年」の心もまた、日ごろの日常生活から解き放たれ、「ありあまる午後」すなわち無限とも思えるほどの自由が自分に与えられたことの実感がやっと湧いてきたのかも知れません。
そういう「少年」の心理を、やはりどこか遠くから見ているような句でもありますし、それは「少年」の心が、すでにこれまでの風景から遠ざかり始めていることと対照をなしているのだとも言えます。
誰にとっても空白のような午後はときどきありますが、それが「ありあまる」ほどあるという感覚は、ある種の懐かしさの感覚とも通じています。
27日におとめ座から数えて「自己価値と資産」を意味する2番目のさそり座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分には既に使い尽くせないほどの資産=残りの人生が与えられているのだということを、どこか懐かしさを通じて実感しなおしていくことになるでしょう。
猫の人間観察日記
猫はよくそばにいる人間を観察しています。そして観察しながら、いつも不思議に思ってしまうのです。
例えば、職場からある日突然人がひとり消えたとしても、飲み会で途中で席をたち帰ってしまったとしても、自分で思い込んでいるほどには、大して悪いことも、良いことも起きはしないのに、と。
彼ら人間はたいてい苦しくなるまで、じっと耐えているのですが、それが猫には不思議で仕方ない訳です。さっさと家に帰って好きな本を読んだり、気心の知れた友達とおしゃべりしていた方が、フィジカルにもメンタルにもずっとよいのにって。
寝ても覚めても、大きい方にも小さい方にも、自分の価値のことばかり気にして生きているのが人間なのだ、と猫はそこで気付いてしまう。一方で、寝食を忘れるほど、何かの追求に夢中になっている人間がいるということも、猫はどこかで知っている。
そんな錯誤と欺瞞の過剰に彩られた人間風景も、漆黒の宇宙の圧倒的な何もなさを背景に見据えると、やっぱり一夜の夢か、一週間で終わる蝉の人生のようにはかなく、愛おしいものだし、猫はそんな自分の立場に存外満足しているのではないでしょうか。
今週はそんな猫の視点も、頭の隅に置いてみるといいでしょう。
今週のキーワード
ありあまる午後