てんびん座
物語の中断、そして再開
物語の外側にある「なにか」
今週のてんびん座は、「灯籠や美しかりし母とのみ」(河原白朝)という句のごとし。あるいは、あなたに知られるべくして待っているであろう過去や歴史や登場人物を再発見していくような星回り。
お盆に、はるばるあの世から還ってくる亡くなった近親者の霊を迎えるために灯す灯籠について詠んだ一句です。掲句が収録されている『今朝の一句』という本によれば、作者の母親は、作者が物心がつかない頃に既に亡くなってしまったそう。
それで、生前の母親のことを知っている人が、お盆の時期にあわせて「君のお母さんは本当にきれいな人だった」としのんでくれた。でも、作者の手元には写真一枚残っていないのだとか。その意味で、掲句は自分としては母親の顔が分からないことが当たり前だと思って過ごしていたのが、ふとした拍子に当たり前ではなくなってしまった瞬間を詠んだ句でもあるのでしょう。
私たちの人生や世界というのは、記憶を通して紡がれた物語によってつくられていますが、そうした物語はときに引き裂かれ、破綻し、あるいはほかの物語と葛藤しては、矛盾を引き起こしていきます。
そしてそんな思わず「あっ」と漏らしてしまうような瞬間に、既存の物語の外側にある「なにか」がかすかにこちらを覗き込んでくる。今週のあなたもまた、そうした気配を通じて、物語の矛盾や葛藤への対処に追われていくことになりそうです。
麒麟のごとく
物語の外側にある「なにか」……なんて言われても、結局なんなのじゃそれはとなってしまうかも知れませんね。
例えば、中国では古来より将来有望な大物が生まれると麒麟が現れるという言い伝えもありますが、どうも現われるだけで何もしないのです。
「千尋の谷に突き落とす」とか、「キビ団子をもたせてくれる」とか、せっかく見込んだ相手のそばに現れたのなら、普通はするであろうことを一切してこない。
ただし、直接手を出すようなことは一切しない代わりに、まっすぐに見守り、あるかなきかのごとくに寄り添い、そしておそらくは祈ってくれている。
今あなたに問われているのも、おそらく「手を出す」以外の仕方で、自分のかたわらに存り続けてくれる存在に、いかに気付いていけるかということなのではないかと思います。
今週のキーワード
灯籠