しし座
偶然を待ち、偶然を力にする
日常は偶然でできている
今週のしし座は、偶然採集少年ポアンカレのごとし。あるいは、大胆な大局観より些細な日常感覚を大切にしていこうとするような星回り。
吾々の目にとまらないほどのごく小さな原因が、吾々の認めざるを得ないような重大な結果をひきおこすことがあると、かかるとき吾々はその結果は偶然に起ったという。
これは数学者アンリ・ポアンカレによる偶然性の定義で、ポアンカレはさらに「小さな原因」に「複雑な原因」を加え、自分の定義の有効性を検証するため、さまざまな事例を出していくのですが、その中にやはり日常生活から取材した例があります。
ひとりの男が所用のために通りを歩いて、とある家の前を過ぎる。その家の屋根の上では屋根職人が仕事をしている。ところが、この職人がうっかり手にしていた瓦を落とすと、その瓦が下を通りかかった男の頭を直撃し、男は死ぬ。ポアンカレはこうした偶然も、やはり「小さな偶然」ないし「複雑な原因」に還元できるとして、次のように述べています。
概して互に縁のない2つの世界が互に作用しあうときは、その作用の法則は必ず非常に複雑なものにかぎるのであって、また他方に於いて、その2つの世界の最初の状況がきわめてわずかに変化しさえすれば、この作用は起こらないでも済んだであろう。この男が1秒遅くとおるか、屋根師が1秒早く瓦を落とすかするためには、いずれにしてもきわめて些細な事情で充分であったであろう。(『科学と方法』)
ポアンカレの偶然論の要諦は「原因に於ける小さな差異と結果に於ける大きな差異」の強調にあった訳ですが、これは逆に言えば、物事をみだりに単純化せず、一つひとつの些細なディティールに目をとめる日常感覚を研ぎ澄ましていくことができれば、少なくとも偶然によるショックを和らげることはできるということでもあったはず。
7日にしし座から数えて「生活感」を意味する2番目のおとめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、いつも以上に生活の解像度をあげ、物事の複雑さへと感覚的に開かれていくことを大切にしていきたいところです。
船旅の譬え
人生は船旅に似ているな、と思う時があります。旅を続けていると、どうしても潮や風にやられて、だんだん船はくたびれ、古くなっていく。不意にそれに気付いた時、人は自由になりたいと思うのでしょうけれど、さりとて船から降りれる訳でなし。船乗りの自由は、やはり新たな海と大地、それらと出会う偶然の中にしかないのです。
その意味では、これまで出会ったことのないような他者だけでなく、世界中の多種多様な物品や、電気などの目に見えない資源というのも、偶然の所産なのかも知れません。
今週のしし座もまた、そうした思いがけない出会いや化学反応に促され、船を走らせる海や立ち寄る先をすこし、けれど確実に広げていくことでしょう。どうかよい風に恵まれますように。
しし座の今週のキーワード
大きな結果をもたらす小さな偶然