しし座
聖なる瞬間を求めて
痕跡をなぞる
今週のしし座は、『湯気立てて来世のやうに二人をり』(櫂美知子)という句のごとし。あるいは、自分の力ではどうにもできない采配の妙に直面していくような星回り。
どこか風情がただよう一句。おそらくは近場の銭湯というより、見知らぬ土地で入った温泉での一幕といったところでしょう。
それにしても「来世のやうに」とは、ずいぶんと思いきった危うい比喩ですが、旅先の緊張感からやっと1日の疲れを癒せるという気の緩みへの落差も手伝って、ついついそんな現実離れした景に見えてしまったのかも知れません。
ただこれがもし湯けむりの向こうに見える影が「一人」であったならちょっと怖い感じになっていたし、「三人」だと風情がなくなっていたところだけれど、それがたまたま「二人」であったがゆえにどこか心動かされる情景となった。
そこには、自分の力ではどうにもできない天の采配としか言いようのないものの痕跡があり、立ち込める「湯気」が視覚的な効果だけでなく、そこによりなまなましい質感を伴って迫ってくるような触覚的な効果をもたらしているのだとも言えます。
1月22日にしし座から数えて「機縁」を意味する7番目のみずがめ座で新月を迎えるべく月を細めていく今週のあなたもまた、そんななまなましい質感やぞっとするような体感を切実に求めていくようになるはず。
椿市の歌垣
例えば、万葉集にも詠まれた「海石榴市(つばいち)」は、奈良の三輪山の南西に所在して開かれた交易市で、古代の市としては最もよく知られたものと言えます。
その名の通り、当時椿(つばき)の実から採る油は食用、燈火用、化粧用に広く珍重されて交易の中心となっており、市が立つからには諸方から訪れた男女がそこで出会い、歌垣(うたがき)すなわちお互いに求愛の歌謡を掛け合う呪術的な習俗の場所としても聞こえていました。
多くの人々がかたみに歌を詠み、心を通わせ、愛しあったその地が、他ならぬ椿市であったのはいかにもゆかりのあることで、早春から晩春まで火の紅の花を咲かせ続ける常緑樹である椿は聖樹、ご神木のたぐいであり、古代人は畏れをもってそれを眺めたのでしょう。
同時に、彼らはただ何かを眺めていたのでなく、そこにおのれの思いをのせて、椿油に火を灯すように、情念の炎を燃やしていったのだということを、われわれは思い出していかねばなりません。
生きるとは、まず第一に出会うことであり、そこでどれだけいのちの炎を燃やしていけるかなのではないでしょうか。その意味で、今週のしし座もまた、どこでなら自身の炎を大きくしていくことができるか、今一度思い返してみるといいかも知れません。
しし座の今週のキーワード
言霊や精霊が遊ぶ非日常的空間