しし座
必死に手繰り寄せていく
覚悟の芸当
今週のしし座は、「百方に借あるごとし秋の暮」(石塚友二)という句のごとし。あるいは、何か誰かを重く受け止め、活かしていこうとするような星回り。
「百方(ひゃっぽう)に借あるごとし」とは、やはり作者にかなりの、そしてあちこちで作ってきた借りがある上に、それがもうどうにも払いようがないほどに重いものであるという実感が込められているのでしょう。
ただし、借りがあることさえ忘れて平気で踏み倒していくというヤクザな風合いではなく、返すだけの宛てが見当たらない中でも、なんとか肚をきめて顔をスッと上げた時の度胸がこの句には刻印されているように感じます。
そして、「秋の暮」のような長い伝統の累積を背負う言葉も、使えばたちまち句が“俳句的”になるだけに、使う者の力量や実存が大いに問われていく訳ですが、掲句の場合は薄っぺらにならならないところでギリギリ踏みとどまれているのではないでしょうか。
それは一朝一夕の努力や、その場しのぎの立ち回りでなんとかなるものではなく、長い伝統を我が身で受け止め、さらに活かそうという覚悟がおのずと育っているのでなければ、とても無理な芸当のはずです。
11月1日にしし座から数えて「積み重ねたキャリア」を意味する10番目のおうし座にある天王星の真向かいに太陽が巡り、否応なく意識がそこへ向けられていく今週のあなたもまた、新語の使用ではなく古語の新化(アップデート)ということを試みていくべし。
引用する私たち
例えば、私たちが普段何気なく行っている引用という行為も、そうした「古語の新化」と密接に関わっています。
そもそも厳密な意味でのオリジナルと言えるものは、いにしえの神話や伝承であれ、現代のコンテンツ作品であれほとんど存在しません。今日において何かしら真剣にクリエーションに携わっていれば、何らかの元型的なパターンや先行モデルを換骨奪胎して転調したり、表現や視点を再配列してずらしていくという営みにおのずと首をつっこんでいるはず。
「ひさかたの天知(あめし)らしぬる君ゆえに日月(ひつき)も知らに恋ひ渡るかも(彼方の天をお治めになっている君だから、いつ果てるとも知らずに恋い続けることだ)」
例えば、既に亡くなった高市皇子(たけちのみこ)を現在の柿本人麻呂がしのぶこの歌などは、どこか『君の名は。』や『時をかける少女』などの作品世界を彷彿とさせるものがありますし、タイムリープものであればオルフェウス神話や民間伝承などにまで遡ることができるかも知れません。
そうした先人の遺してくれた偉大なパターンを積極的に引用し、みずからに取り入れていくこともまた誠実な愛情表現なのだということを、今週は胸に刻んでいきたいところです。
今週のキーワード
百方に借あるごとし