しし座
一から出直すために
空の両手をどこへ伸ばすか
今週のしし座は、無能無才な自分から出発していった松尾芭蕉のごとし。あるいは、肉体と精神を停滞から解き放って、みずからを新たな発見に直面させていくような星回り。
松尾芭蕉といえば「俳聖」と讃えられ、俳句を文芸として確立させた芸術的完成者ですが、彼が生きた時代は、少なくとも志ある若者が生涯の仕事として選ぶようなものではありませんでした。
芭蕉もはじめから俳諧師を目指していた訳ではなく、当初は侍の世界で出世することを願い、また仏の道に励んでいた時期もあったようです。
つまり、彼は才能があったから俳諧師になろうと思ってなったのではなく、振り切ろうとしても振り切れない1つの業のようなものとして俳句がそこにあり、むしろ俳句によって選ばれたのだと言えます。
今のしし座のあなたもまた、もしかしたらこれまでの自身の挫折や失敗、手応えのない現在にどこか途方にくれているかもしれません。
けれど、自身の歩むべき新しい道を切り開かんとする者は、得てして何も持たない両手を一縷の望みへ向けて必死に伸ばすことで初めて、その第一歩を踏み出していくもの。
20日(水)におとめ座で満月が形成されていく今週は、そんな自分の前途へ向けて、いま何をすればいいのか、改めて自身に問いかけていくことになるでしょう。
どうしても捨てられないもの
こうした心境について、芭蕉は自身の言葉で次のように語っています。
「ある時は倦んで放擲せんことを思ひ、ある時は進んで人に勝たん事を誇り、ぜひ胸中にたたかうて、これがために身安からず。しばらく身を立てん事を願へども、これがために遮へられ、しばらく学んで愚を悟らん事を思へども、これがために破られ、つひに無能無無才にして、ただこの一筋に繋がる」(『笈の小文』)
ここで言う「これ」こそが俳諧の道のこと。この文章は芭蕉の謙遜などでは断じてなく、うめくように発された気付きの言葉であり、覚悟の語りなのでしょう。
俳句に飽きてやめてしまおうということもあった。勝ちにこだわって人より優位な自分を誇ったこともあった。そうしてあれこれと思い悩んで、安らかであったことなどほとんどなかった。
それでも離れられず、帰ってきてしまう自分の原点でありホームグラウンド。それこそが、芭蕉にとっての俳諧であると同時に、しし座のあなたが切り開いてゆくべき道なのだと言えます。
今週のキーワード
無能無才も芸のうち