ふたご座
面倒を丁寧にかける
猫を抱く口実
今週のふたご座は、『落葉して猫太りしか抱いてみん』(藤田哲史)という句のごとし。あるいは、面倒なわだかまりや引っかかりをほどいていこうとするような星回り。
「猫太りしか」の“しか”は疑問・反語の連語で、「猫は太っただろうか」の意。はらり、かさかさなど落葉の質感のもつ軽やかさと、猫を抱いた際のずっしりとした感触との対比がおもしろい一句。
半砂漠地帯にルーツをもつ猫は、もともと寒さに弱い動物。しかも、からだが小さいぶん、人間より寒さを感じやすいため、人間が肌寒いと感じる前に、すでに冬支度を整えているもの。飼い主たるもの、そんな猫の自然界への適応ぶりを察して、さりげなく手助けしてあげるくらいの器量は備えておきたいところ。
しかし、本当のところは、それも単なる口実で、作者は単に猫を抱いてみたかっただけかも知れないという推測も打ち消せません。というのも、人間というのは本質的に、さりげなく察したり、手助けしたりできるような器用でスマートな存在というだけでなく、何をするにも口実を必要とする面倒な生き物だから。
そう考えると、掲句のどこか芝居がかった言い回しも、なんだかいじらしく、かわいらしいものに思えてくるはず。同様に、11月5日にふたご座から数えて「コミュニケーション」を意味する3番目のしし座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、暗黙の了解としての“口実”を、いつもより少しだけ素直になって口にしてみるといいでしょう。
島尾敏雄の『夢の中での日常』の一節
特に難しい言葉が使われている訳ではなくても、言葉の組み合わせとして不自然だったり、一読してよく意味が分からないということがあります。
私は胃の底に核のようなものが頑強に密着しているのを右手に感じた。それでそれを一所懸命に引っぱった。すると何とした事だ。その核を頂点にして、私の肉体がずるずると引上げられて来たのだ。私はもう、やけくそで引っぱり続けた。そしてその揚句に私は足袋を裏返しにするように、私自身の身体が裏返しになってしまったことを感じた。頭のかゆさも腹痛もなくなっていた。ただ私の外観はいかのようにのっぺり、透き徹って見えた。
例えば、ここに書かれているようなことは、実際にはありえないし、また、いつかあり得るものでもないために、読んだ側も最初は不明晰な印象を受けます。ただ、次第にこうした事実としてありえない意味が、かゆさの感覚、またはかゆさに耐えかねて、それを逃れたいという欲求の暗喩になっていることが分かってくるはず。その意味で、見た夢もまたある種の口実なのです。
今週のふたご座もまた、なんらかの感覚の自己表出に裏打ちされたリアリティに着目し、それを言語化してみるといいでしょう。
ふたご座の今週のキーワード
隔靴掻痒を追う