やぎ座
うそも真実
そこに愛はあるんか
今週のやぎ座は、『てつちりやけろりと嘘をつく人と』(三村純也)という句のごとし。あるいは、胸の底に沈みかけていた信義が問われていくような星回り。
「てっちり」とは高級食材であるフグが主役の鍋のことで、発祥の地は大阪です。船場である大阪は、古くから商業の要衝の地であり、口八丁手八丁の商人たちが互いにしのぎをけずりあってきました。
大阪で生まれ育った作者による掲句もまた、そんな風土をふまえた句として読む必要がありますし、「ポスト真実」という現在の時代精神を鑑みてもじつに味わい深い一句と言えます。
気の緩みがちな会食の席もまた現代では化かしあいの場に他ならず、そこで書かれた文字や言われた言葉をそのまま鵜呑みにしたり、逆にやたらと過去の実績だとかおかたい正論を振りかざして相手に食ってかかったり、自分を大きく見せようとしているばかりでは、いい商売などできないどころか、逆に信用を失って相手にされなくなってしまうでしょう。
そしてこれまで以上に、ほんとも虚偽で事実もでたらめなこれからの時代にあっては、筋の通し方というのもずいぶん変わってくるはず。
かつて寺山修司は「美しくない真実は、ただの事実に過ぎないだろう」とどこかに書いていましたが、ここでいう「美しさ」の基準とは分かりやすい権威だとかフォロワーの数にひもづくものではなく、そこにどれだけ愛情があるか否かの一点に尽きるのではないでしょうか。
12月1日にやぎ座から数えて「集合的精神」を意味する12番目のいて座で新月を迎えていく今週のあなたは、そんな時代の移り変わりにおのずと即していくことになりそうです。
けろりとした顔で
ここで思い出されるのが、血のつながらない親子の関係を描いた瀬尾まいこの『卵の緒』という短編小説です。
小学生の育夫は周囲の様子から自分が捨て子であったことにうすうす勘づいており、ある時、学校の先生からへその緒の話を聞いて、自分と母親が本当の親子であるなら、へその緒が家にあるはずだと考え、「へその緒を見せて」と母親に頼みます。けれど、そんな育夫に母親は卵の殻を見せ、けろりとした顔でこう言ってみせるのです。
「母さん、育夫は卵で産んだの」
育夫はそうしてまた煙に巻かれてしまうのですが、それでもありふれた日常のなかで優しく軽やかな愛情がそこにあることが描かれていく(ついでに言えばこの母親はシングルマザーだ)。そうしてこの小説は、目には見えないけれど、確かな絆や暖かな繋がりの存在を感じさせてくれるのですが、だからこそ、逆に血は繋がっていても一見そうとは分からない暴力や支配を含んでしまう現実の親子関係の残酷さをも照らし出しているように思います。
それもこれも、「血がつながっている」という事実への過度な期待や誤解によっているのだとしたら、いっそ「橋の下で拾ってきた子」というフレーズの代わりに、「卵から産まれた子」というフレーズがまことしやか広まった方がよっぽど楽になれる子どもも多いのではないでしょうか。
今週のやぎ座もまた、生まれ育った環境や両親に対する思いのなかに、もし未だ抱えているしこりがあるのなら、いっそ自身の出自をめぐるイメージを大胆に書き換えてみるといいかも知れません。
やぎ座の今週のキーワード
事実どうであるかよりも、豊かな物語であるかを優先すること。