やぎ座
はざまで揺れていく
「考えたことを書き、思ったことを話せばよい」
今週のやぎ座は、溺れ方のあとに泳ぎ方を知っていった哲学者のごとし。あるいは、シンプルに「哲学すること」を大切にしていこうとするような星回り。
東北屈指のきのこと山菜の宝庫である山形県西川町出身の哲学者・山内志朗は、『わからないまま考える』に収録された「東京で溺れない哲学」というエッセイのなかで、都会というのは「一年中、吹雪が吹き荒れているようにしか感じられない」のだと述べ、そんな「都会に溺れていた」のだと自身の若かりし頃を振り返っています。
山内は大学を留年し、ギャンブルに溺れ、酒をあおって荒んだ生活をしていたそうですが、「雪のごときものに埋もれて」いる自分自身を見出し、その背後にある自然のはたらきをはるかな起源へと遡っていくなかで、哲学とは「考えたことを書き、思ったことを話せばよい」というシンプルな結論に導かれていったのだそうです。
そして、これまでの自身の仕事の大半を占める原稿書きについて、「背後にある何ものかが、私を駆り立てている限りで、書いている」とした上で、こうも述べています。
文章とは、水と空気と風と熱などのエレメントに発するものではないのか。海から上る水蒸気は、空に至り、雨滴になったり雪になったりする。それは、風が聖霊のような働きをして、天にあるものを遠くに運び、地上に届けるような様子と似ているような気もする。文章は天気と似ている。海から発して最後には海に帰っていく。
8月13日にやぎ座から数えて「中長期的なビジョン」を意味する11番目のさそり座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、いま自分はどんなものに埋もれているのか、そしてそれは、どこからやって来て、あなたをどんな風に苦しめ、そしてどこへと帰っていこうとしているのか、見届けていく思いで書いたり話したりしてみるといいでしょう。
壊れるものと壊れないもの
三島由紀夫の唯一のSF小説である『美しい星』に、「明るい汀(みぎわ)」という言葉が出てきます。
この物語は、埼玉県飯能市に住む大杉家の家族4人がそれぞれ円盤を見て、自分が別の星からやってきた宇宙人であるという意識に目覚めるところから始まります。そうして、次第に日本の家父長的文化から距離を置いていきつつ、人間の肉体をもつがゆえにどうしても矛盾や危うさを持ってしまう「異星人」の視点から、地球を救うための様々な努力が重ねられていくのです。
そして話の終盤、一家の父親である重一郎が癌で危篤に陥ります。間もなく死を迎えんとする中で、「宇宙人の鳥瞰的な目」をもつ不死性を象徴する存在であった重一郎が、突如として「死」を意識するようになり、こう述べるのです。
生きてゆく人間たちの、はかない、しかし輝かしい肉を夢みた。一寸傷ついただけで血を流すくせに、太陽を写す鏡面ともなるつややかな肉。あの肉の外側へ一ミリでも出ることができないのが人間の宿命だった。しかし同時に、人間はその肉体の縁を、広大な宇宙空間の海と、等しく広大な内面の陸との、傷つきやすく揺れやすい「明るい汀」にしたのだ。
今週のやぎ座もまた、必滅と不死のはざまで、さまざまな思いや記憶に触れていくことになるでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
「異星人」の視点から