かに座
仮面を取る
他人に耳を傾ける力
今週のかに座は、フロム=ライヒマンの治療者論のごとし。あるいは、自分の誤りや限界について素直に認められるような関わりを持っていこうとするような星回り。
ドイツ出身の精神科医フリーダ・フロム=ライヒマンは主著『積極的心理療法―その理論と技法』の中で、「治療者は中立ではありえない」し、治療過程に巻き込まれながら観察し、関わりながら観察するしかないのだという考え方を表明しました。
これは、治療者の中立性を重んじたフロイトなど従来の精神分析の主流的な考えとは明らかに異なる立場ですが、中立性に代わって治療者に求められるべき資質や能力とは何かということについてこう述べています。
精神科医の人格とその専門的能力の基本として要求されるのは、なんであろうか。この問題に一言で答えようとすれば、それは「精神科医は少なくとも他人のいうことに心から耳を傾けうる人間でなければならない」ということになる。
ここで「他人のいうことに心から耳を傾けうる力」というやや抽象的な言葉が出てくるのですが、そのもう少し具体的な定義づけとして、フロム=ライヒマンは次のようにも述べています。
精神科医が自分を尊敬していて、しかも患者をも尊敬していれば、自分が全知全能であるとか空想して、患者に「聴きいる」能力が障害されることはないし、また、自分が心理療法という奇跡を行う魔術師であることを要求されているのではないことを自覚しているはずである。その結果として、自分に誤りや力の限界や欠点が生じたとき、これを認め得るようになるのである。
11月20日にかに座から数えて「深い人間関係」を意味する8番目のみずがめ座に冥王星が移っていく今週のあなたもまた、魔法のような力を持つのでも、誤りのない存在であろうとするのでもなく、ただ向き合う人に対して正直で、率直であれるよう心がけていきたいところです。
「慎み深い露出」としての顔
かつては「40になったら、自分の顔に責任を持て」ということがよく言われてたものですが、これはそれだけ顔というものが、本人の生き様を正直に映し出す“厳しい鏡”のようなものと見なされてきたということでもあります。
例えば、哲学者のレヴィナスは「顔はおよそ正直なものだが無防備であり、慎み深い露出を行っている、本質的に<貧しい>ものである」(『倫理と無限 フィリップ・ネモとの対話』)と述べていますが、ここで言われている貧しさとは、<傷つきやすさ>と言い換えてもいいでしょう。
ただし、私たちはふだんそうした素顔を、〇〇社のマネージャーだとか△△君のママなど、他者から意味付けられる肩書きや役割を使って覆い隠しており、あまりにそれら場面ごとに使い分けられる仮面と素顔とを癒着させてしまっているようにも感じます。
その意味で、今週のかに座においては、そうした癒着から脱したところで、みずからの貧しさや傷つきやすさをそれとなく露出させていくことがテーマになっていくのだと言えるでしょう。
かに座の今週のキーワード
役割に紐づいた権力関係の解除