かに座
まだ引きずっているものの尾をつかむ
三つ子の魂百まで
今週のかに座は、「卵から産まれた」という言い方のごとし。あるいは、自身の出自をめぐる“物語”をそっと掘り起こしていこうとするような星回り。
親が聞き分けのない子どもをたしなめる際に口にする「あんたは橋の下で拾ってきた」というフレーズは、直接間接を問わなければ誰もが耳にしたことがあるはず。一方で、実際に血のつながらない親子の関係を描いた瀬尾まいこの短編小説『卵の緒』には、それとは少し違った言い方が出てきます。
小学生の育夫は周囲の様子から自分が捨て子であることにうすうす勘づいている。ある時、学校の先生からへその緒の話を聞いて、自分と母親が本当の親子であるなら、へその緒が家にあるはずだと考え、「へその緒を見せて」と母親に頼む。けれど、そんな育夫に母親は卵の殻を見せ、けろりとした顔でこう言うのです。
「母さん、育夫は卵で産んだの」
育夫はそうしてまた煙に巻かれてしまうのですが、それでもありふれた日常のなかで優しく軽やかな愛情がそこにあることが確かに描かれていく(ついでに言えばこの母親はシングルマザーだ)。
この小説は、読者に目に見えない暖かな繋がりを感じさせてくれるのですが、だからこそ、逆に血は繋がっていても目に見えない暴力や支配をさまざまなやり方で組み入れてしまう現実のさまざまな親子関係の残酷さをも照らし出しているように思います。それもこれも、「血がつながっている」という事実への過度な期待や誤解によっているのだとしたら、いっそ「橋の下で拾ってきた子」というフレーズの代わりに、「卵から産まれた子」という言い方をした方が、よほど楽になれる人も少なくないのではないでしょうか。
15日にかに座から数えて「家庭」を意味する4番目のてんびん座の新月から始まる今週のあなたもまた、生まれ育った環境や両親に対する思いのなかに、もし未だ抱えているしこりがあるのなら、いっそ自身の出自をめぐるイメージを大胆に書き換えてみるといいかも知れません。
影おに
人間というものはすべて、どんなに洗練されているように見えても、必ずどこかに太古的なものを引きずっており、したがって醜悪で不気味な暗い影が差しているものです。
そうした側面をふとした拍子に垣間見せられた者は、わざわざさかしらに暴きたてるような野暮な真似までしないものの、受け止めきれずに一方的な価値判断を加えてみたり、自分が見た悪夢を打ち消そうと完全な明るさに満ちた別の像を夢見ていく傾向にありますが、それこそ終わりなき屈折と錯覚の始まりなのだと言えるのではないでしょうか。
心にはまだ発達可能な太古的無意識の「残り」がありますが、それがどれだけの規模なのかは、誰にも分かりません。人はなぜ理性的でないのか。善のみ行わず、悪を為すのか。愚行を繰り返し、最善の意図を見失うのか。そして、なぜどこまでも自分に満足できないのか。
今週のかに座は、改めてこうした問いに立ち返っていく意志を問われていくことでしょう。
かに座の今週のキーワード
あなたが心の平穏を取り戻すためにどれだけの手助けが必要なのか