かに座
胸の奥底に流れる調べ
古いことばの解消と浄化
今週のかに座は、『どんど焚く初めにことば次なる火』(岡本眸)という句のごとし。あるいは、できるだけ本能にかなった“調べ”に身を浸していこうとするような星回り。
「どんど焚き」は、松の内まで飾っていた松飾りやしめ縄、書き初め、お守りやお札などを、神社などに持ち寄って燃やす(=お焚き上げする)行事のことで、年神さまを煙とともに見送るという意味合いもあったようです。
聖書の有名な一文を思わせる「初めにことば」という表現も、おそらく人びとの願いのこもった“もの”が大量に積み重ねられた様子に圧倒されてのものでしょう。そして、それらはすでに古くなってしまったがために、神聖な「火」によって浄化されねばなりません。
「火」「炎」のもつ不規則なゆらぎは人間に不思議な安心感をもたらしますが、掲句においても「次なる火」は、単にその“意味”をこえて一句全体を包みこむような“調べ”となって意味以上の世界を現出させているように思えます。
「すべての芸術は音楽という状態に憧れる」という言葉がありますが、俳句もそうであるように、人間のやることはまじないめいてくるほどに、意味は解体されて響きそのものへと近づいていくものなのでしょう。
その意味で、1月15日にかに座から数えて「安心感」を意味する4番目のてんびん座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、古くなってしまった「ことば」を解消し、大きな火の調べによって送り返していきたいところ。
砂漠が美しいのは…
例えば、サン=テグジュペリの『小さな王子さま』(山崎庸一郎訳)の中には次のような一節が出てきます。
「砂漠が美しいのは」と、小さな王子さまは言いました。「それがどこかに井戸を隠しているからだよ…」
わたしは、突然、この砂の謎めいた輝きのわけがわかってはっとしました。少年だったころ、わたしは古い家にすんでいましたが、そこには宝が埋められているという言いつたえがありました。もちろん、だれもそれを発見した者はいませんでしたし、たぶんそれを見つけようとした者もいませんでした。
掲句で詠まれた「どんど焚き」もまた、ここで話されている「井戸を隠しもつ砂漠」の一つだったのではないでしょうか。その意味で、今週のかに座は、自分自身の「ことば」の下に埋まったままの、まだ見ぬ「泉」を見つけていこうとしているのだとも言えます。
かに座の今週のキーワード
胸の奥底に埋もれたもの