かに座
笑われて自由になる
異類異形
今週のかに座は、「除け者にされているアタシ」のごとし。あるいは、良い言い方をすれば中立、悪い言い方をすれば仲間外れになっていくような星回り。
マツコ・デラックスがテレビで見かけないことがないほどの人気者になってから既に久しいですが、その人気の秘密である踏み込んだ毒舌と絶妙なトークスキルが一体何に支えられているのかについて、本人は2014年に刊行された自著の中で次のように分析しています。
というわけで、「差別されているから笑われてるんだ」ということは、いつも意識しているわ。だから、皆さん、イジメてこなかったんだと思う。(中略)このことを別の角度から言うと、テレビで重宝されるのは、差別されている存在だからなの。同性に言われたらシャクにさわるし、異性に言われたら傷つくようなことでも、その両陣営から除け者にされているアタシに言われたら、あっさり受け入れられるのよ。
これは「差別されているから笑われてるし、仲間外れだから許されてる」という見出しのついた節で述べられている一節なのですが、これは歴史学者の網野善彦が指摘しているように、「異類異形」といわれた、覆面や蓑笠姿の中世の悪党や山伏などの無縁者の本質とぴったり重なっています。すなわち、彼らもまた差別されているがゆえに自由であり、異類異形鎌倉末・南北朝期の動乱における活動が根強く肯定されていったのです。
5月1日にかに座から数えて「解放区」を意味する11番目のおうし座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、みずからの立ち位置を考えていく上でマツコ的なるものを参考にしていくといいでしょう。
奔流の一部となる
民俗学者の柳田國男は古来、愚かもの、無知者、臆病堕弱か無分別な壮年男などが民俗的生活の中でつねに笑われてきたことを踏まえて、次のように指摘しました。
いずれも笑はれる者が人だつたといふことである。人またはこれと対等同視すべき者が目標となつて、始めて「笑」といふ感動は起るのであつた。(…)しかしいずれにしても笑は一つの攻撃方法である。人を相手としたある積極的行為(手は使はぬが)である。(…)弱くて既に不利な地位にある者になほ働きかけるもので、言はば勝ちかかった者の特権である(『笑の文学の起源』)
これは逆に言えば、人間関係が安定して秩序ある落ち着きがあるような時には笑いの余地は少ないということでもあります。つまり、笑いというのは人間関係に潜在していた齟齬や矛盾が露呈し、関係性の在りようが変わって、横滑りし、落ち込み、歪曲されて危うくなったところで一気に湧き出してくるものなのだということ。そして、そこでは笑いこそが人間の相対化を決定的なところまで推し進めていくのです。
柳田國男はこうして、笑いのあとで笑った人間をどこか遠くで見ている神がいるのを感じ始めるはずだと結論づけましたが、今週のかに座もまた、笑い/笑われることを恐れずに受け入れていきたいところです。
かに座の今週のキーワード
「存在の人間化」としての笑い