かに座
集合的な夢を支える
極私的生命賛歌
今週のかに座は、春の日差しにたゆたうシャツのボタンのごとし。あるいは、何に劣るとも勝らない生命のはかなさに浸りきっていくような星回り。
あなたは、やがて死んじゃうのです。
あなたより、今、あなたが着ているシャツのボタンのほうが、
ずっと長生きするでしょう。
こう書いている僕だって、死んじゃうのです。
僕の着ているシャツのボタンよりも早く――。
やがてボタンは拾われて、誰かのシャツのボタンになり代わる。
そうやって、あなたや僕よりも長く、ボタンはこの世界に残り、
永遠の春の日にも、誰かの手がシャツのボタンを留めていく。
4日夜に自分自身の星座であるかに座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんなボタンを手に取る誰かとなって日々を記憶に留めていくことでしょう。
エキストラとして
たとえば、映画というのはたくさんの人の手によって作られる“集合的な夢”のようなものと言えます。興行主がいて、観客がいて、脚本があって、監督がいて、登場人物を演じる役者たちがそろって初めて成り立っていく訳ですが、映画にリアリティーをもたせていくためにはもう一つ、登場人物の背景となる無名の人々を演じるエキストラの存在が欠かせません。
エキストラというのは、撮影現場などの裏側の事情を知れると同時に、映画という夢の一部になれるという意味で、好きな人にはたまらない楽しさがあるそうですが、それは言わば他人の見ている夢に、そうであると知りながら、自覚的に入っていって下支えしていく営みであるとも言えるのではないでしょうか。
とはいえ、考えてみれば私たちがこの世を生きていること自体が、そもそも一つの劇であり、幻想であるとも言える訳ですが。
今週のかに座は、エキストラとして集合的な夢を下支えするつもりで、カツラをかぶって時代劇へと臨んでいくくらいのつもりで過ごしていくといいかも知れません。
今週のキーワード
サンサーラ