かに座
つっこみ待ち
ボケが放たれたまま
今週のかに座は、「大風やはふれん草(ほうれん草)が落ちてゐる」(千葉皓史)という句のごとし。あるいは、万事おおらかに。
大風が吹いているなか、外に出てみると、路上にほうれん草が一束落ちていたという、ただそれだけの意味ですが、一読して妙に気持ちのいい感じがする一句です。
おそらく、近くに畑はないのでしょう。春の「大風」といっても、それはたんぽぽの綿毛を遠くまで飛ばすくらいのもので、これほどきちんとした“物”をミスマッチな場所まで飛ばすほどではないはずです。
誰かが落としたのか、この後ほうれん草はどうなってしまうのか。そのあたりは一切不明。それが何とも言えない滑稽味を醸しますが、青々とした「ほうれん草」は春の季語であり、作者はそこに春の到来を感じたのかも知れません。
それが路上に落ちているほうれん草がいくら唐突で不相応なものであれ、どこか掲句がおだやかに感じられるのは、OOという音とともに始まり下五にもやはりOが入っている音の響きの効果もあるのでしょう。
2月18日にかに座から数えて「ノーボーダー」を意味する11番目のおうし座に位置する天王星(逸脱)が、土星(規制)と90度の角度をとって思いきり否定していく今週のあなたもまた、自分自身をこれまでの文脈からすれば唐突で不連続に思える場所へと置いていくことになるかもしれません。
記憶と戒め
かつて村上春樹さんは元・オウム真理教信者へのインタビュー集である『約束された場所で』という本の中で、次のように書いていました。
残念なことだが、現実性を欠いた言葉や論理は、現実性を含んだ(それ故にいちいち夾雑物を重石のようにひきずって行動しなくてはならない)言葉や論理よりも往々にして強い力を持つ
確かに、この本でインタビューを受けている元信者たちは、みなどこか論理性を盾につっこまれることを避けているような印象を受けます。
別に事件そのものを考える訳ではなくても、いま日本に住んでいる自分たち自身について考えていく上で、こうした過去の記憶や痛みを思い出していくこともまた、改めて必要なことと言えるでしょう。
なにせ私たち人間というのは、とかく大事なことを忘れてしまうものですから。
今週のキーワード
つっこみあってこそのボケ