かに座
いのちの歌
死者との共同体を生きている
今週のかに座は、ドイツの詩人ヘッベルの詩の一節のごとし。あるいは、死者への思いなしとしての言葉を生きていくような星回り。
19世紀ドイツの悲劇詩人で劇作家のヘッベルには、ある種の鎮魂歌、レクイエムと言える詩が存在します。ただし、その詩が呼びかけているところのものは、死者ではなく、むしろ生者であり、死者たちのために生者の魂に訴えかけていくのです。
魂よ、あの者たちを忘れるな/魂よ、死者たちを忘れるな
見るがよい、死者たちはお前の周囲に漂う/わななきながら、打ち棄てられて。
そして愛の掻き起した/聖なる炎によって、あわれな者たちは/暖を取って息をつき
燃え尽きんとする生命に/これに限りにひたっている。
死者たちのために永遠の安静を祈っているのでも、神に呼びかけている訳でもないという意味では、この詩は厳密にはレクイエムですらでなく、ただ死者の声を自身に宿らせ、それをその他大勢の生きている者どもへ伝えてくれているのだと言えます。
もっと死者の声を聞け、お前たち生者は、生きている者同士の集合においてだけでなく、死者との共同体をも生きているのだぞ、と。
その意味で、30日にかに座から数えて「忘却と想起」を意味する12番目のふたご座で月蝕の満月を迎えていく今週のあなたにおいても、すっかり忘れていた誰かの思いがふっと思い出されたり、宿ってきたりといったことが起きていきやすいかもしれません。
タゴールにおける生命の自己表現
アジアで最初のノーベル賞を得たインドの詩人タゴールは、大らかで悠久なる生命観を歌いあげた多くの詩を残してくれていますが、「生の実現」を意味する『サーダナ』においては、とりわけその煌めくような生命ビジョンに惜しげもなく言葉が与えられています。
「われわれは至るところで生と死の戯れ―古いものを新しいものに変える働き―を見ている。」
「生命は自分の行動を妨げようとする老化を嫌う。」
「生命が詩と同じように、たえずリズムを保つのは、厳格な規則によって沈黙させられるためでなく、自己の調和の内面的な自由をたえず表現するためである。」
一日ごとに新しくよみがえり、生と死が交錯していくこの世の情景において、タゴールはただ埋没的な生を送り、死への怖れを抑圧するだけの在り方を、暗に批判しているのだと言えるではないでしょうか。
つまり、生命の真価はただ豊かかつ華やかに生命を謳歌することのなかにあるのではなく、その生と死の連続の中に表現された生命を、自分事として表現していくことにおいて初めて輝いていくのだ、と。
今週のキーワード
生命の実現としての詩