かに座
天使のさえずりを聴け
沈黙への同化
今週のかに座は、「物いはばかしましからん雛の数」(肩雪)という句のごとし。すなわち、声なき声に耳を傾け、あるいは沈黙していくような星回り。
お雛様はものを言わない。みやびな楽の音や豪勢な宴を楽しむ人々の笑い声が今にも聞こえてきそうな華やかな雰囲気はあれど、彼らはただただ沈黙の中に座しているのみ。
その胸のうちをあれこれと詮索してしまうのは、どうしたっておしゃべりな人間の悲しくも決して捨てられないサガでもある。
SNSやネットの言論などに毎日接していると、ついつい声は大きければ大きいほど良いのだとつい勘違いしがちだが、消え入りそうなかそけさや、囁き声でしか決して伝えることのできない真実というものは、いつの世であれ変わりなくあるもの。
例えばそれは社会から疎外された弱者や例外的存在の声であり、また権力にとって都合の悪い意見や事実を伝える声などもそうだろう。
その点、3月3日にかに座から数えて「抑圧された領域」を意味する12番目のサインであるふたご座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたなら、周囲が目を向けないところに意識を向け、誰も聞こうとしない声にそっと焦点を合わせていくことができるはずだ。
クレーの天使
人のためとか、世のためとか、そういう道徳臭い手垢に染まった想像力は、今のあなたにとっては無用の長物以外何物でもないのかも知れない。例えばパウル・クレーが日記に書いていた夢の話の中で、日本人の芸者に三味線の音を所望する次のようなくだりに注目したい。
「心が誘惑に駆られると、たちまち私の耳はかすかに戸を叩く音をとらえた。その音に誘われていくと、小さな守護神が表れ、可愛らしい手をさしのべ、私を天界にそっと連れて行った」
こうした身体ごと飛んでいってしまうような「軽み」の感覚こそが、今のかに座に必要なものなのだと言えるのではないか。
なおクレーにとって「天使」とは、「傷つきやすさと極端な脆さを持ちながら、われわれ人間を保護する聖霊的な存在」のことを指しているらしいのだが、これはまさに掲句の「雛」そのものだろう。
今週のキーワード
沈黙と傾聴