みずがめ座
余白という不穏
夕顔はどこに咲く
今週のみずがめ座は、「ゆふがほやたしかに白き花一ッ」(成田蒼虬)という句のごとし。あるいは、これまで曖昧なまま向こう側に漂っていた領域をみずからの言葉や行動で踏破していくような星回り。
夕顔と言えば、最近は夜顔の花をそう呼ぶようになりましたが、掲句では、夕顔の花が一輪だけ、夕闇にまぎれて咲いているところを詠んでいます。
夕顔は、その縮れた咲き姿だけでなく、植物学的な分類の上でも、非常に微妙な立ち位置にあります。というのも、夕方に花を咲かせ、次の日の午前中にしぼむのですが、完全に夜になってから咲く夜顔とも異なり、また朝顔や昼顔などの似た植物の中でも夕顔だけがウリ科なのです(他はヒルガオ科)。
そうした、夕顔のきわめて危うい存在感をなぞるように作者が添えた「たしかに」の一語で、かえって花の存在が不確かに感じられてくるのではないでしょうか。
その意味で、掲句はあやうく不確かな存在を、確かな言葉づかいで表現してみせた秀句と言えるのではないかと思います。
17日にみずがめ座から数えて「世界のアウトライン」を意味する9番目のてんびん座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、できるだけ自分の中で不確かだった存在や不明瞭だった領域にこそ目を向けてみるといいでしょう。
不穏な気配
例えば、あなたが最後に心から笑ったのはいつですか?もしそれがすぐにパッと思い出せないくらい前のことならば、それがあなたの世界のアウトラインなのかも知れません。
みずがめ座というのは、どこか常識から外れたアイデアや、奇妙な作業に耽っているような時がもっとも生き生きしているものですが、それはなぜなのか。
野暮を承知で言わせてもらえば、それは普段言いたくても言えないこと、現わそうとしても現わせないことが、自分と世界とのあいだの「余白」の中から突如としてバッと飛び出してくるから。
余白のところは、別に「夕顔」に限らず、裂け目でも断崖でも、荒れ寺でも夢魔の棲み家でもいいんです。だいたい、他の人は気にもしていなかったり、そもそも見えてもいなかったり。でも、こちらでだまってジッと見ていると、不意にこみあげてくるものがある。
物であれ人であれ、そういう不穏な気配のするところに今週あなたは惹きつけられていくはずです。
みずがめ座の今週のキーワード
不確かな存在を、確かな言葉づかいで