みずがめ座
ほんのすこしだけ手を加えること
ふたつの「皿二枚」
今週のみずがめ座は、「春めくや水切籠に皿二枚」(小川軽舟)という句のごとし。あるいは、伝統や過去の遺産を引き継ぎつつもそこに刷新を施していくような星回り。
掲句を一読して思い出されるのは、俳句の世界では名句として知られる「秋風や模様のちがふ皿二つ」という原石鼎(はら せきてい)の句でしょう。
その句がなぜ名句とされるのかと言えば、まず第一に医師の家系に生まれながら父母を裏切り文芸の道を志していった作者の境涯が滲み出ている点、第二に模様の違う「二枚の皿」だけで生活の苦しさを簡潔に表してみせたこと。そして第三は、そんな皿の冷たさと秋風の冷たさとが見事に響きあってひとつの調和を成しているということによるのでしょう。
その意味で、掲句は「春めく」陽気の暖かさのなかで「皿二枚」という台所の慎ましさがそっとやさしく包まれるようで、じつに対照的な味わいとなっています。作者は家族を養うために、家族と離れて暮らす単身赴任生活を余儀なくされた訳ですが、ここでも原石鼎の句と真逆のベクトルを向いています。
そもそも男性が台所で詠んだ俳句というのは伝統的にほとんど見られなかった訳ですが、共働きが当たり前になっている現代社会では、「男子厨房に入らず」などという言葉はもはや死語と言っても過言ではないはず。
余分な水滴を落とす「水切籠」のサッパリとした語感は、そこに過剰な感傷や自己憐憫は持ち込むまいとする作者の潔さが感じられます。
12日に「この世界と向き合う姿勢」を意味する自身の星座であるみずがめ座で新月を迎えていく今週のあなたのテーマもまた、移りゆく時代にあわせてかつて押しつけられた「当たり前」を潔く刷新していくことがテーマとなっていくでしょう。
明るい直感
考えてみれば、台所の窓からの光の差し込み具合などで季節が春めいてきているのを感じるというのは、ある種の子どものわき見やよそ見であり、また大人にとっては「インスピレーションとは何か」という問題として取り扱うことができるのではないでしょうか。
例えば、ホームに入ってきた電車の窓ガラスに反射した強い光や、不意に目に飛び込んできたはじけるような誰かの笑顔。あるいは、ブルーライトに照らし出された幽霊のような文字列の中でそこだけ不思議と光っているような文章であったり。
そういう見た瞬間に内側から希望なのか情熱なのか分からない、明るさとしか言いようのものが湧いてくる感覚を、なぜだか私たちは既に知っているはず。そしてこれらもまた、掲句の作者のように“わきまえた男性”ならば、その消息をきちんと辿っていくことで新しい句が出来上がるヒントとして捉えていけるのではないでしょうか。
今週のみずがめ座は、そうしたヒントをどうにか掴んでいくなかで、自分のなかの世界の地図をひっくり返して書き換えていくことができるかも知れません。
今週のキーワード
わきまえた男性