みずがめ座
善悪を超えて
片目の面
今週のみずがめ座は、大分県の国後半島にある岩倉八幡社で行われる「ケベス祭」のごとし。あるいは、正義と悪という二項対立を超越していこうとするような星回り。
「ケベス祭」とは毎年10月14日に行われる起源も由来も不明の火祭りのこと。
火が焚かれた海沿いの神社の拝殿で、神官が祝詞をあげるなどした後、クジで選ばれた地元の男性が白装束た仮面を身につけ準備が整うと、神官が彼の背中に指で何かの文字を書いてから思いっきり叩くと、仮面をつけた青年は何かに導かれるようにして立ち上がり、「ケベス」となります(これを「入魂」というそう)。
拝殿から境内に出ると、ケベスは円を描きながらゆっくりと群衆の前を練り歩き、やがて突然止まったかと思うと、燃えさかる焚き火に向かって全速力で走り出す。これを阻む「トウバ」という役の男たちがいて、ケベスとトウバの一人は焚き火の前で一進一退の攻防を幾度となく繰り返すことになります。
9度目でついに突入に成功すると、ケベスは棒でシダの山をかき回し火の粉を散らすと、その後はトウバも火のついたシダを持って境内を走り回り、参拝者を追い回す。この際に火の粉を浴びると無病息災になるのだそうです。
なお、このケベス面は目の部分がずれていて、面をつけると片目にしか見えない状態になるのだそうですが、神話の世界において“越境者”は片腕や片足がなかったり、身体の一部が不自由なことが多いですから、ケベスは越境者のひとりであり、人間でも化け物でもあるような得体の知れない何かなのでしょう。
2月3日23時59分に立春を迎えていく(太陽が水瓶座15度へ移行)今週のみずがめ座のあなたもまた、そんな奇祭でクジに選ばれた青年のごとく、得体の知れない何かに導かれていくことになるかも知れません。
幻影と残滓
人間というものは例えどんなに洗練されているように見えたとしても、すべからく太古的なものを引きずっており、したがってその周囲(の人間関係)には、必ずどこかに不気味な暗い影が差しているものです。
そうした隠れた側面をふとした拍子に垣間見た者は、わざわざさかしらに暴きたてるような野暮な真似までしないものの、受け止めきれずに一方的な価値判断を加えてみたり、自分が見た悪夢を打ち消そうと完全な明るさに満ちた別の関係を夢見ていく傾向にありますが、それこそ私たちが超越していくべき「終わりなき幻影」と言えるのではないでしょうか。
人はなぜ理性的でないのか。善のみ行わず、悪を為すのか。愚行を繰り返し、最善の意図を見失うのか。そして、なぜどこまでも自分に満足できないのか。今週のみずがめ座は、改めてこうした問いに立ち返っていくきっかけを与えられているようにも思います。
今週のキーワード
「ケベス」はヘブライ語で「子羊」の意