みずがめ座
未来的ノスタルジー
障子の白
今週のみずがめ座は、「家のもの一切古色障子貼る」(香西照雄)という句のごとし。あるいは、古びてきた人生に、迎え入れていきたいと思える未来をひとつ、取り入れていくような星回り。
家のすべてが古色に染まっている。そこで冬支度として、障子の貼り替えを行ってみた。というのが句の大意。
掲句は昭和40年の作で、その頃の日本の家屋はまだ材料のほとんどが古い木や土でできており、月日を経ると紙は茶色くなり、木材は黒ずんでくるのが特徴でした。
そうした家において障子の紙を貼り替えることは、古色のなかにまったく新しい色を加えることを意味しました。
紙の白だけが古色以外の色なのです。それは単に模様替えというレベルを超えて、家をすがすがしく再生させていくための大切な儀式でもありました。
また作者はこの句を作った前年に、高校生の息子を事故で失っていたそうですから、もしかしたら障子の白には喪失による心の空白もまた反映されていたのかも知れません。
そうして喪失を受け入れていくということは、同時に新たな自分の感情の発見でもあり、障子の白はそうした色んな意味での「未来」の象徴であったはず。
そして太陽がさそり座へと移っていく今週のみずがめ座もまた、これから迎えていく自分の未来に、できる限りの複雑な思いを託していくことがテーマとなっていきそうです。
写真の色
「彩色写真」というものをご存知でしょうか。
白黒の写真に、細い絵筆などで微細な着色を施したものなのですが、そこにはカラーフィルムが開発され、写真技術が進んで誰もが手軽に写真を撮れるようになった現在からは失われてしまったなんとも言えない不可思議な味わいがあります。
例えば、昭和のはじめの上海で投函されたものが数十年間船の底で眠っていて、何かの手違いで令和の時代に生きる自分の元へと配達されてしまった絵葉書があるとしたら、それは彩色写真以外では考えられないのです。
そうして現在に落とされた一滴の過去は、不思議なほどの懐かしさを与えてくれると共に、まだ見ぬ未来へのタイムスリップもまた促してくれるはず。
今週は、さながらそんな彩色写真を自作するかのように、幻想の絵筆をもって古き記憶に今を生きる自分なりの色を加え、まったく新しい想像を試みてみるのも悪くないでしょう。
今週のキーワード
古色と白と彩色と