
てんびん座
頭を置いてぼりにする

舌出し写真の誘惑
今週のてんびん座は、アインシュタインの舌のごとし。あるいは、どこか忘れかけていた「生身の動物としての感覚」をとっさに思い出していくような星回り。
相対性理論を提唱したアインシュタインと言えば、現代の天才の代名詞のような人物ですが、彼が時代を超えてここまでアイコニックな存在たりえているのは、あの有名な舌だし写真の効果も大きいように思います。
アメリカのプリンストン高等研究所で72歳の誕生日を祝われた帰り、タクシーに乗り込んだところを狙ったメディアに「べーっ」とやってみせた写真は、数々の雑誌の表紙を飾っただけでなく、あらゆるポートレートのなかでも出色の出来と言えるでしょう。
あれは「笑ってください」というリクエストに応えてのポーズだったと言われていますが、どうしてもこうも人びとの記憶に強烈な刻印されているのか。
舌を出すと言えば、『となりのトトロ』の冒頭で悪ガキのカンタにからかわれたサツキが「あっかんべーっ」とやってみせた場面が思い出されますが、そこには愚弄だけでなく、羞恥やおどけ、そして親しみの裏返しのようなものも含まれているように感じます。
伴田良輔は『絶景の幾何学』の中で、この舌を出すという行為について、「相手にとっさに同じ反応を誘発する要素」があり、それは「人類が言葉を持たなかった長い長い時代のコミュニケーションのなごり、しぐさにおける尾てい骨のようなもの」だろうと述べています。だとすれば、アインシュタインの舌だしは私たちをどこへ誘っているのか?
おそらくそれは、私たちが年を取ればとるほど人前で舌を出さなくなり、出すとしても親密さが保証された密室での秘め事に限定されてしまうこととも大いに関係しているはず。
すなわち、あの舌だし写真は、私たち人間(特に男性)が否定したり忘れたりしてしまいがちな、生身の動物としての感覚へと引き戻す方へと誘っているのではないでしょうか。
それはアインシュタインが人類の頭のよさの象徴であり、老年の男性であったことで、さらに奇跡のような逆説となりえたのだと言えます。
4月13日に自分自身の星座であるてんびん座で満月(感謝と解放)を迎えていく今週のあなたもまた、うっかりそうした誘いに乗ってみるといいでしょう。
子ども時代モードへの切り替え
たとえば、家から駅までの見慣れた通勤路から、いきなり見知らぬ街角へ立たされたなら、誰しも心細い思いに駆られるでしょう。ただ、はじめは戸惑っても、いったんその街なりの通奏低音とでも言いますか、耳慣れない喧噪にも、なにか特有の音楽性だったり、なつかしさのようなものを見出せば、自然と考えるより先に体が反応していくはず。
当然、視覚情報としては、目に飛び込んでくるものは不安を呼び起こすばかりな訳ですが、生命というのは元来そんなに“やわ”には出来ていませんから、素直で大胆な体が頭より先に反応する時は、まごつく脳や頭などそっと置いてけぼりにしておけば良い。
自分の辞書にのっていない現実の匂いや音、肌ざわりや味に接したなら、さながら昆虫採集する少年少女のように、ただ無心でそれらに自分のからだを開いていくこと。耳なら耳、鼻なら鼻、指なら指、舌なら舌と、まず1つこれで確かめようという、自分なりの“先遣部隊”を決めておいてもいいかも知れません。
今週のてんびん座もまた、そうしてまだ自然体だった子どもの頃の自分に戻ったつもりで、改めて人やモノとの関わりに向き合ってみるべし。
てんびん座の今週のキーワード
『となりのトトロ』の冒頭





