
ふたご座
光の影のはざまで

墓の上に食べ物を置いて
今週のふたご座は、シューベルトの「子守歌」のごとし。あるいは、安息と再生への祈りが込もった儀式を執り行っていこうとするような星回り。
日本でも「ねむれねむれ、母の胸に/ねむれねむれ、母の手に」の訳詩で親しまれている作品に、シューベルトが19歳のときに作曲した「子守歌」があります。いつ聞いても、どこか懐かしい気持ちになるメロディと歌詞なのですが、この歌の歌詞は2番になると唐突に雰囲気が変わります。
原詩の冒頭を抜き出してみると、「Schlafe,schlafe in dem süßen Grabe」。最初の「ねむれねむれ」は同じですが、最後の「Grabe」は「お墓」のこと。一文を直訳すると「この甘やかなお墓のなかでお眠りなさい」となります。
生まれたばかりの赤ん坊を寝かしつけるための「子守歌」に、死を意味する「墓」という不吉な単語が使われるのは現代の感覚からすると違和感を覚えますが、『シンボル辞典』(北星堂)で「墓」の項目を引いてみると、「女性的なるもの」「母なる大地の子宮」の表象として用いられてきたという記述とともに、次のようなお話が載っています。
古代エジプト人は再生の願望から王の墓としてピラミッドを造った。内部にはミイラを安置し、死後、肉体を離れた魂はやがて肉体に戻ってくると信じていた。民間信仰では新年や春の儀式に、墓の上に食べ物を置いて再生と新しい時を祈願した。
子守歌の作詞者がこうした古代エジプトの習俗や民間信仰を知っていたかは分かりませんが、シューベルトの穏やかなメロディを聞いていると、「墓」という歌詞に込められていたのも、やはりそうした安息と再生への祈りだったのではないかと思えてきます。
4月13日にふたご座から数えて「愛情表現」を意味する5番目の星座であるてんびん座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、自分自身のために子守歌を歌ってあげるようなつもりで過ごしてみるといいでしょう。
影おに
人間というものはすべて、どんなに洗練されているように見えても、必ずどこかに太古的なものを引きずっており、したがって醜悪で不気味な暗い影が差しているものです。
そうした側面をふとした拍子に垣間見せられた者は、かえってさかしらに暴きたてるような野暮な真似をしてしまったり、受け止めきれずに一方的な価値判断を加えてみたり、自分が見た悪夢を打ち消そうと完全な明るさに満ちた別の像を夢見ていく傾向にありますが、それらはいずれも無意識的な防衛機制の働きであり、そこから終わりなき屈折と錯覚の迷宮が始まっていくのだと言えるのではないでしょうか。
心にはまだ発達可能な太古的無意識の「残り」がありますが、それがどれだけの規模なのかは、誰にも分かりません。人はなぜ理性的でないのか。善のみ行わず、悪を為すのか。愚行を繰り返し、最善の意図を見失うのか。そして、なぜどこまでも自分に満足できないのか。
今週のふたご座は、こうした人間の「影」の部分を垣間見つつも、いかにそこで圧倒されてしまうのではなく、泰然と子守歌を歌っていけるのかが問われていくことでしょう。
ふたご座の今週のキーワード
あなたが心の平穏を取り戻すためにどれだけの手助けが必要なのか





