おとめ座
沖に出る
吐息と解放
今週のおとめ座は、ある小さな孤島の岬の鼻のごとし。あるいは、しがらみの外へと誘ってくれる何かに身を浸していこうとするような星回り。
南海の孤島にたてこもり、180名の部下たちと特攻作戦に従事し、逃れられぬ死の呪縛の中で出撃命令を待つ、局限的な状況を描いた戦記小説である島尾敏雄の『出孤島記』。この小説には、特攻隊の基地のある浦のどこか陰のある景色とは対照的な筆致で書かれた、浦の外側、その外界へと抜ける岬の描写が登場します。
外側は空気が動いていた。そして限界が広く開けた。/入江うちが淀んで凪いでいても、此処に来て、足を一歩入江そとの方にふみ出すと、風が耳のうらを鳴って通り、身体の中に飼っている鳩が自由なはばたきをあげて飛び立つ思いをした。/沖合の波は白く穂立ち、かもめがゆるく舞っていた。そして入江は海峡に大きく口を開き、その海峡越しに、はるか向うの島の山容、海岸沿いの県道の赤い崖崩れなどが、痛いようにこちらの気持に手を差し伸べて来た。/入江うちでの重い荷のようなものが、背中からはがれ落ち、私は軽々と自分自身になって、何の才能も技能もないままの姿を浜辺に伏せることができた。
島尾にとって、この岬の鼻が特別の昂揚感と自由さとともに描かれたのは、その隣村に住むひとりの女性のためでもありました。言うまでもなくそれはのちに島尾夫人となるミホだったのですが、この浦の外側へと抜けていく描写は、本来は決して交わりえない、軍という公的世界の規律が海=女性という自然の律動へと開けていく奇跡的な交わりの光景でもあったのです。
7月12日におとめ座から数えて「循環」を意味する12番目のしし座に金星(平和と調和)が入っていく今週のあなたもまた、そうした規律から律動への開けとひとつになっていく流れが強まっていくでしょう。
大きな息の流れ
いわゆる大往生と言うのは、深く息を吐き切った後に亡くなっていくことが多いそうですが、「息を引き取る」というのは、「潮が引く」のと同じで、「元に戻っていく力が働いている」のだと言えます。つまり、“もと”の何かに引かれている、あるいは、引っ張っている何かがそこに現れている、ということなのではないかと。
では、この“もと”とは一体なにか?(かみさま、自然、宇宙など)つまり、息を引かれていくということは宇宙に帰るとか、自然に帰るとか、そういうことなんですね。
そうすると、先の「浦の外へ抜けていく」という描写も、すぐさま新たに息を吸おうとするのでなく、どこまでも息を安らかに吐いていくことのできる先があるという感覚に通じており、引かれているこちら側と何の抵抗もなくスムーズにつながっている大いなるものの懐に包まれてあるという、自然や宇宙との一体化体験として解釈していくこともできるのではないでしょうか。
今週のおとめ座もまた、そうした自分をスムーズに引いてくれる大きな呼吸の中で、息を深く吐けるよう調整していくことをどうか意識してみてください。
おとめ座の今週のキーワード
潮の満ち引きと同調していく