おうし座
生きてるって何だろ?生きてるってなあに?
ゾンビ問題
今週のおうし座は、『いきいきと死んでゐるなり水中花』(櫂未知子)という句のごとし。あるいは、動物的な嗅覚で人の生き死にを嗅ぎ分けていくような星回り。
「水中花」は水の中で生きているかのように水を吸ってうつくしく花開く造花のこと。この句はそんな水中花がたとえどんなに美しく見えようとも、しょせん造花に過ぎないことの哀れさを詠ったもの。
普通ならば「いきいきと死んでゐるなり」とまで言い切ることはできませんし、発想することさえできない人も多いはず。それは、堂々と練り歩く“裸の王様”をみて、「王様は裸だ」と言えたのが忖度もない代わりに社会常識もない子どもだけだったのとも似ています。
とはいえ、人間のようで人間ではなく、死んでいるようで生きている、そんなゾンビのような存在は映画や漫画、アニメの世界を中心に近年爆増しています。こうしたゾンビという存在の他のモンスターにはない一番の特徴は、その性質が伝染していく点でしょう。
つまり、仲の良かった人や、自分自身さえもゾンビになってしまうかもしれないという恐怖がゾンビには伴う訳ですが、これは情報化社会における価値観の異なる「他者」への恐れを反映したものとも言えるように思います。確かに、ちょっとした議論や意図が通じないとみるや、有無を言わさずこちらを排除・排斥してくる存在は、まさに「いきいきと死んでゐる」のではないでしょうか。
その意味で、1月23日に自分自身の星座であるおうし座で約5カ月間続いた天王星の逆行が終わって順行に戻っていく今週のあなたもまた、掲句の作者や童話の子どものごとく、生きているフリをしているゾンビたちとは一線を画す生命力を取り戻していくべし。
破格の文体
フランスの思想家バタイユは、人間は他の動物と違い、禁止を侵犯すること自体が欲望の対象となりえる動物であり、それこそがエロティシズムの条件だと考えました。つまり、「やっちゃいけないとされてきたことをする」から花は赤く鮮やかに咲くのだと。
例えば、20世紀のフランスの作家セリーヌは、パリの貧民街で開業医をしている主人公医師バルダミュが全世界の欺瞞と愚劣に徹底的に呪詛と悪罵をはき続ける独白スタイルの小説『夜の果てへの旅』を、それまでもっぱら文語体で書かれてきた小説に、口語体と俗語を持ち込んで賛否両論にわかれたものの、それゆえに一世を風靡しました。
いわば、文学に口語を侵入させたのであり、ゾンビとなっていた文学に生命を吹き込んだのです。それは新たな文体の発明であり、話自体もとんでもなく面白いものでしたが、やはり語り口に少なからず引き揚げられていたのではないでしょうか。そして、彼が自身の小説について「文学の本ではない、人生の本だ」と言っていたことも忘れずに記しておきたいと思います。
おうし座の今週のキーワード
鮮烈な赤を!