うお座
今は昔
妄想スイッチON
今週のうお座は、『風除に大きな人の現われし』(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、まわりが真面目な顔をしている時ほどいたずらを仕掛けていこうとするような星回り。
「風除(かぜよけ)」とは北国などで冬時の寒風を避けるため家の北側や西側につくる塀のこと。なのですが、掲句ではそうした風除の実際の様子が詠まれているというより、どこからか大きな人がやってきて、たまたまその姿が風除のように見えたということなのでしょう。
なんというか、ただそれだけのことを詠んだ何の変哲もない句ではあるのですが、その素っ気ない手触りやかすかなに漂うユーモアがどこか寓話的で、尾を引くところがあります。
それで、いったんこういうスイッチが入ると、どこで何を見ていても「お、あの人も風除になりそうだな」とか、「この人を風除にしたら倒れてかえって巻き添えを食いそう」といった想像が働くようになってきてしまうのが人のサガというもの。
そういえば、イソップ童話の『北風と太陽』では「どちらが旅人のマントを脱がせられるか」という勝負して、強風を吹かせた北風が穏やかに日ざしを注いだ太陽に負けてしまいましたが、もしこれが「どちらがいい風除になる旅人を見つけられるか」という勝負だったら北風の方に軍配は上がったはず。というか、旅人たるもの困難を楽しまんでどうする。
厳しい逆風が吹いている時ほど、こうした突拍子もない遊び心がはたらくだけの余白を生活のなかで持てるかが大切になってくるものですが、その意味で12月1日にうお座から数えて「処方箋」を意味する10番目のいて座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、そのままではあまりに過酷な現実をいかに遊び心やいたずら心をもって面白みのあるストーリーに仕立てていけるかが問われていくでしょう。
三年寝太郎
面白みのあるストーリーという意味では、日本の昔話というのは1度聞くといつまでも記憶に残ってしまうようなものが多いですが、昔話を忘れがたいものにしている要素の1つとして、「例外性への憧れ」というものがあります。
ふだんは食っちゃ寝を繰り返しているだけの男性が、ふとした拍子に起き出しては他の皆には真似できない活躍をして、ありえない富と美しい嫁さんをもらって幸せになる。悪い意味で普通ではなかった人が、良い意味で普通ではない結末を迎えるというパターンです。
どうしてそういうことになったのか、大抵の場合は本人もよく分かってない。というより、初めからよく分からない動機付けをよく分からないままに放っておくことができたからこそ、それが熟成発酵をへて結果に結びついたというだけなのだとも考えられます。
つまり、例外的なパターンを実現させ得たのは「よく分からないと感じたことを分からないまま放っておける力」に他ならず、それこそが例外的なストーリーを紡ぎ出す原動力に他ならない。逆に言えば、大抵の人はよく分からないままの動機を、そのまま放ってただじっとしていることに耐えられず、下手に分かったふりをしてしまったり、こんなことをしていてはダメだと身を固めようとしてしまう。
今週のうお座は、自分の中に周囲とは異なる動機付けがあることに気付いたとき、あえてそれを放っておくことを自分に許していきたいところです。
うお座の今週のキーワード
ネガティブ・ケイパビリティ