てんびん座
循環的味わい
秋風と干魚
今週のてんびん座は、『秋風や干魚をかけたる浜庇(はまびさし)』(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、自分の手の届く範囲内で循環をつくり出していこうとするような星回り。
この「干魚(ひうお)」というのは天日干しのこと。「浜庇」は海辺の貧しい漁師さんの粗末な家のことで、そうした家の屋根に干魚がかけてあって、それを秋風が乾かしているんですね。
その秋風が、保存食として自分で食べるためなのか、売り物にするためなのかは分からないけれど、それは現代の工場で作られているような薬品漬けの製品とは違ってほんとうに美味しいですし、安心して食べることができます。
最近はやれウーバーイーツの配達員にひどいのがいるとか横柄な店があるなどと書き込みなどで言われがちですが、これは元はと言えば「金さえ出せば何でも買える」という消費者側の発想が招いた事態でもある訳です。外国からの輸入品であれ国内産であれ、食べものに対してやってはいけない加工や偽装をするお店や業者がたくさん出てきていますから、余計に安心して食べられるものが少なくなっている。
そういう意味では、掲句のような状況というのはとても貴重な光景ですし、最高の贅沢品でもある訳です。もちろん、当時の漁師さんたちはそんな認識など微塵もなかったはず。一見すると家は粗末なんだけれど、そういう在り方こそが真に「豊か」であるということなのかも知れません。
10月6日にてんびん座から数えて「世俗への態度」を意味する10番目のかに座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、現代社会的な際限のない欲望と適切に手を切っていくことがテーマになっていきそうです。
病まないために
シベリアの民話には、人間の女性が森の中で若い男と出会い、結婚した後に、相手が熊だと分かるみたいな話がたくさん出てくるのですが、そこでは伴侶が熊だと気付いても特段驚くことなく子どもを作り、やがて熊の習性を知り抜いた上で人間界に返されます。
猟師の知恵の根幹は、そうした熊と結婚していた女性から聞いた話にあり、猟師は子を孕んだ母熊や子熊を殺してはいけないという「掟」を必ず守ることで、熊から肉や毛皮をプレゼントしてもらう。少なくとも、そういうことになっている。
なぜこのようなフィクションがつくられたのかについて、宗教学者の中沢新一は、熊を殺すことに対する衝撃があまりに大きく、ただ狩っているだけでは精神的に病んでしまうからだろうと述べています(『熊を夢見る』)。
つまり、熊をただ殺した訳でなく、霊の世界に戻しただけで、自分たちは自然の循環を壊している訳ではないのだと確認することで、「癒し効果」を得ていたのではないかと。
その意味で、今週のてんびん座も、自分自身を過度に特別視していく代わりに、もっとやんわりとこの世界にいられるような儀式を生活のなかに取り入れていくべし。
てんびん座の今週のキーワード
ただ買い、ただ搾取しているだけでは精神的に病んでしまう